第3話 能力は使ってこそ真価を発揮する
「……あれ?陛下の愛馬は白ですけれど、殿下の愛馬は黒ですよね?」
「フェデリーゴは私が選んだ馬だからな。兄上のティツィアーノとは血が繋がっておらぬ」
というか、殿下の馬はこの子たちとは体つきがなんか違う気がするんですよね。
元ヴェレッツァのお城からの帰り道、少し乗せてもらった黒い毛色のあの子はもっと……。
「私の場合必要だったのは軍馬だからな。どんな悪路でも走れるような馬を選んだ上で、軍用馬専門の訓練を受けさせている」
「そうだったんですね」
「都合の良い事に、私の軍服が目立つ色だからな。馬が狙われる可能性が低いという点でも、フェデリーゴは優秀だ」
「なるほど」
だからあの子はあんなにがっしりした体型をしていたんだ。もしかしたらこの子たちとは、種類からして違うのかもしれない。
それに殿下の、あの青と白の軍服。他の軍人の方たちとは違って、妙に目立つ色だとは思っていたけれど。わざと目立たせているのなら、黒い毛色は確かに目が向きにくい。
「だが、まぁ。私としては、馬たちよりも……」
何か気になることがあるらしい殿下が、珍しく陛下に疑いの目を向けていて。
それをどこか面白そうに受け止めている陛下は、きっとまだ何かを隠している。
「何だ?好きに言ってみろ」
「では、お言葉に甘えますが。兄上、馬たちだけでなくネズミたちにまで、アグレシオン側を混乱させるよう指示を出していましたね?」
「っ!?」
「ふむ……。流石に報告が行くか」
驚いている私とは対照的に、今度は陛下が冷静に納得しているけれど。
お願いなので、私一人置いてきぼりにして会話を進めないで下さい。そこの王族兄弟。
「ヴェレッツァ城の食糧庫がネズミにあり得ないほど荒らされていたと、確認に向かわせた者から報告がありましたから。あれは兄上の仕業だったのでしょう?」
「当然だな。そもそも兵糧攻めは、基本中の基本ではないか」
「何か工作はされているのだろうなと、思ってはおりましたが……。戦う前に決着をつけるやり方は、今の世では兄上以外には出来ない戦法ですよ?」
「何。能力は使ってこそ真価を発揮するものだ。むしろ折角の力、使わずしてどうしろと言うのだ」
「使うなとは申しておりません。ただカリーナの護衛に鷲を使役していた件も含め、私にも一言あっても良かったのではないかと」
「ふむ。なるほど、確かにそうだったな」
あ、あれ鷲だったんだ。
そして多分殿下、ちょっと拗ねてますね?大好きなお兄様から、そういう大事なことを教えてもらえていなかったから。
陛下も陛下で、ちょっと嬉しそうな顔をしないで下さい。口元手で覆って隠しても、緩んでるのバレバレですからね?
「だがまぁ、奥の手は隠してこそ奥の手だ。もしもの備えは多い事に越したことはない」
「それは……そう、ですが……」
あ。これ殿下も奥の手は誰にも言わず隠しておく派だな。
こういうところ、本当に兄弟そっくりだよね。
ん?というか……。
(これもしかして、先代国王陛下も同じだったんじゃ……?)
考えてみたら、私未だに陛下からヴェレッツァの薬について言及されてない。一応薬そのものは献上してあるけど。
でも実は、その存在自体を陛下が知らなかったから。
孤児院にいた私のことといい、どうにもこの国の王族は隠し事がお好きらしい。
それともあれなのかな?英雄様の血なのかな?
(もしそうなら、私も気をつけよう)
特に殿下に対しては、極力隠し事をしないようにしないと。後でどんな目にあわされるのか分からないからね。
「十分な食料も確保出来ぬまま城を飛び出しておいて、さてどうするつもりだったのか」
「兄上、悪い顔をしていますよ。妙に周辺諸国がアグレシオンの後退を把握するのが早かったのも、兄上の仕業ですね?」
「ははは!何、少しばかり人の言葉を話せる鳥たちに協力してもらっただけの事だ」
人の言葉を話せる鳥!?そんな鳥が存在しているんですか!?
「兄上……妙な言葉を彼らに教え込まないで下さい……」
「何、すぐに忘れるよう伝えてある。第一人の言葉を覚えたいと、普段から言われていたからな。丁度良いではないか」
「覚えさせる言葉が特殊すぎますよ」
え、待って。私はその話せる鳥が気になるんですけど!?
「……カリーナ、その件に関しては後で私から説明する」
「あ、はい」
ごめんなさい。どうやら殿下には私の気持ちが駄々洩れだったようです。
話の腰を折ってしまって本当に申し訳ない……。
「まぁ、早いか遅いかの差だけだ。そう気にする事でも無い」
そう口にする陛下の目は、今まで見たことがないくらい冷たい色をしていて。
ただその理由が、ヴェレッツァ王国が滅ぼされたからだと、前に殿下からも聞いていてなんとなく分かってしまったから。
果たして私はどう答えるのが正解なのか、よく分からなくなってしまった。
――ちょっとしたあとがき――
ちなみに殿下の愛馬は、フリージアンという種類の馬をイメージしています。
世界一美しい馬と言われる「フレデリック」という名前の青毛の馬がこの種類ですので、もしかしたらご存じの方もおられるかもしれませんね。
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