第2話 旧ヴェレッツァ城
連れてこられた先は、とても綺麗なお城だった。
なんとなく。本当になんとなく、ここが旧ヴェレッツァ城なんだなと。ぼんやりと理解した。
(きっとヴェレッツァの初代王は、英雄様からもらった名前の通りどこよりも美しくしようとしたはずだから)
それはきっとお城だけじゃなくて、街並みだったり人々の生活だったり。多岐にわたるんだろう。
けれどそれも今は、かなり衰退してしまっていて。
実際乗せられた馬車で通ってきた城下町だったはずの道は、手入れされていないレンガが起伏を作っていて。馬車の性能を抜きにしても、かなりの悪路だったから。
「王の会議が終わるまで、ここで待っていろ」
そう言われて閉じ込められた先は、きっと外から見えたいくつかの塔の一部。高い場所なのは上がった階段の段数の多さと、窓の外に見える景色からすぐに分かった。
ただ内装は簡易なものだけれど、作りはしっかりしている机とベッド。狭いけれど要人を閉じ込めるような場所にも見えなかった。
とりあえず、部屋に唯一ある窓に近づいてみる。
「……さすがに、落下防止の鉄格子ははめてある、よね」
でもそれだって、かなり趣向の凝らしてあるもので。
むしろここが何のための部屋だったのか、そちらの方が気になってしまうくらい見事な装飾だった。
「…………陛下、きっとすぐに殿下に伝えたんだろうなぁ……」
殿下と一緒に聖地に向かった時には、一度も見たことがなかったのに。私一人の時は、必ず上空を飛んでいた肉食の大型の鳥。
さすがに高すぎて種類までは分からなかったけど、鷹か鷲のどちらかだったんだろうなとは思ってる。
そんな風にボーっとしながら、ふと窓の外を見たら。
「あら……?」
器用に窓枠のところにとまっている、可愛い小鳥。鳴きもせずにこちらをじっと見つめてくるその姿は、何かを要求されているようで。
「ちょっと待ってね。今開けるから」
鉄格子がはめてある関係で、内側にしか開かない窓を解放すれば。途端、部屋の中に入ってくる小鳥。
その、足には。
「……紙?」
器用に結び付けられているのは、明らかに小さな紙。
と、いうことは……。
「あなた、陛下か殿下からのお使いなの?」
「ピィッ!」
話しかければ、まるで返事をするように一鳴きするその姿が可愛くて、思わず笑みが零れる。
いつ誰が部屋の中に入ってくるか分からないので、まだベールは被ったままだけれど。その気配は伝わったんだろう。今度は不思議そうに小さく首を傾げていて。
「あぁ、ごめんね?あなたがあまりにも可愛くて」
「ピィ?」
「ふふっ。あ、そうだ。その紙、中身を確認しないとね」
私が手を伸ばして、足に結ばれている紙を解いている間。暴れるでもなく大人しくしてくれているあたり、本当にお使いとしてきたんだろう。
陛下が動物たちと会話できるのは、ダニエル君とのやり取りで知っていたけれど。まさかその場にいなくても、こんな風にちゃんと意思の疎通ができるなんて。
「本当に、兄弟揃って凄い力。ねぇ?」
「ピィッ」
当然とでも言いたげに返事をしてくれた小鳥は、ようやく違和感から解放されたからなのかぶるぶると体を震わせる。
その姿に癒されながら、小さな紙を開いて中身に目を通せば。
「…………え、本当に大丈夫なんですか……?」
本人たちはいないのに、思わずそう口にしてしまったくらい。とんでもない内容が、そこには書かれていて。
陛下曰く。
『先ほどフレッティが挙兵してそちらへ向かった。夕方には帰ってこられるだろうから、心配しなくていい』
だ、そうだけれど。
「……いやいやいやいや!違う意味で心配になりますけど!?」
ドゥリチェーラからここまで、いったいどれだけ離れていると思っているのか。確かかなりの距離があったはず。
しかも途中通ってくるのは、聖地がある山の中。
さすがに徒歩ではなく馬に乗ってなんだろうけど、それでもさっき捕まったばっかりなのに今日中に帰れる、って…………。
「殿下だけじゃなくって、その殿下についてくる皆さんが……本当に大丈夫なんですかね……?」
殿下はほら、なんとなく、その……出来てしまいそうだから。あの人。
なんだろう、そこはなんか別格と言うか……。あぁきっと大丈夫なんだろうなぁって、つい思ってしまうわけだけど。
「……普通は、殿下についてこられないと思うんだけどなぁ」
とはいえ、この文言にかなり不安を拭ってもらったのも事実で。
陛下がそう言うんだから、大丈夫でしょう!って。無条件で信じられるのは、下手なことを口にはしない方だと知っているからか。
ただ。
「こんな風に先に手紙を出しておくなんて、殿下と同じで過保護で心配性なんだなぁ」
二人の共通点をまた一つ知って、ちょっとほっこりしてしまう。
状況は、そんな場合じゃないはずなのにね。
「ピィッ!ピィ!」
「あぁうん、ごめんね?え、っと……机があるってことは、引き出しの中に何か入ってないかな?」
当時のまま放置されているのだとすれば、中にはまだペンやインクが入っている可能性もある。
そう思って、期待半分で開いた先で。
「…………確かに逃げられないだろうし、これを届ける手段は普通ないだろうけどさ……」
だからって、紙もペンもインクも全てそのままにされている、なんて。
閉じ込めるべき場所、間違ってない……?
「あー……そっか。自分のところのお城じゃないから、アグレシオンの人たちもこの部屋が本当は何なのか誰も用途を知らないのか」
私も未だによく分かってないけど、まぁ道具があるのなら素直に使わせてもらおう。
手短に、でも居場所が分かりやすいように。あとは無事をちゃんと伝えておかないとね。
「ピィ!」
「うん。今返事を書くから、少しだけ待っててね?」
不思議と意思の疎通が出来てるような気がするのは、なんでなんだろう?
そうちょっとだけ疑問に思いつつ、私は手紙の返事を書くためにペンを握って机に向かうのだった。
――ちょっとしたあとがき――
思ったよりも平和に過ごせているカリーナ(笑)
連れてきた人間をすぐに連れて来いと言わなかったアグレシオンの王は……さて、何の会議をしていたのでしょうかねぇ?
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