第3話 救出された先で

 小さな手紙を書き終わって、小鳥の小さな足に落ちないようにくくりつける。


「お願いね?」

「ピィッ!!」


 元気よく返事をしたその子は、来た時と同じように窓から飛び立って行ったけれど。


「…………あなたたち、全員陛下のお使い?」


 いつの間にか窓辺に佇んでいた、同じ種類の小鳥たち。

 思わずそう問いかければ、全員から一斉に答えるようにさえずられて。


「いや、陛下本当に……」


 心配しすぎ、とは思ったけれど。さすがに口に出すのはやめておいた。

 実際どんな目に遭うのかも分からない状況だったのは事実だし、心配しない方がおかしかったんだから。


「陛下だけじゃなくて、殿下も王妃様も心配してるよね、きっと……」


 今からあの時に戻ったとしても、同じ選択肢しか選ばないけれど。

 それでもそのせいで大勢の人にものすごく影響があるのだと改めて認識して、本当に申し訳なく思う。

 でも……。


「……こういう形じゃなければ、いつかは来たいと思ってたのになぁ」


 私という存在の、もう一つの故郷。いつかその場所を見てみたいと、思わなかったわけじゃない。

 お母様が育った、ヴェレッツァアイの名前の元。

 ただ窓から見える外の景色は、遠くを見れば緑が多くてとても綺麗なのに。

 実際の街の現状を見てしまった後だと、素直に美しいとは思えなくて。


「本当はきっと、もっとずっと綺麗だったはずなんだろうなぁ……」


 侵略されていなければ、今だってその美しさを保っていたはずなのに。

 聖地に暮らしている人たちは、その美しさだって誇りに思っていたと言っていた。その言い方が過去形だった理由が、ようやく分かった気がする。


「…………いつか……ちゃんと復興出来たらいいのに……」


 私一人の力で何とかできることではないから、軽々しく口にはできないけれど。

 それでも本心から、そう思った。



 だってそれはきっと、唯一の生き残りの王族の血を引く、私の役目のはずだから。


 出来ることがあるのなら、全てやっておきたい。


 後悔なんて、一つもしたくないから。



「……そのために、大量生産できるお菓子を考えていたのにな」


 殿下にも協力してもらって、相談していたのに。

 甘いお菓子なら、きっと受け入れやすいだろうと。そう提案した私に、笑って頷いてくれて。

 それなら手始めにと、ビスケットを焼いてみた。さすがに味見は頼まなかったけど、大量生産での効果のほどは後日試してくれると約束してくれた。

 それもまだ、出来ていないのに。


「街の人たち、ちゃんと食べれてるのかなぁ……?お菓子だけじゃなくて、何かもっとちゃんとした食べ物を用意した方がいいのかな?」


 アグレシオンの馬車に乗っていたからか、その存在を恐れて街には誰一人いなかったけれど。

 もしかしたら、いつもあんな感じなのかもしれない。下手に出歩いていて、何かがあったら怖いから。

 でもそれは逆を言えば、ちゃんとした生活が送れていない可能性もあるということで。


「私はきっと大丈夫だから。何か他に出来ることがないか、今のうちに考えておこう」


 ここで一人で不安になっているよりも、ずっといい。

 未来のことを考えるということは、生きる希望を失っていないということだから。



 でも、まさか。



「……?なんか、外が騒がしいような……?」


 机に向かって集中していたせいで、色々と気づくのが遅れて。


「妃殿下っ…!!よかった!!ご無事だったのですね!!」

「……え?」


 こんなにも早く、本当に迎えが来るなんて思ってもみなかったから。


「殿下……」


 救出された先で見た光景が、誰もいない謁見の間らしき場所に一人ぽつんと佇む殿下だった、なんて。



 いや、無茶をするにもほどがあるでしょうが!?!?



 そう言いたかったけれど、さすがにそこはグッとこらえて大人しく殿下の腕の中におさまっておいた。

 実際、心配させた自覚はあったので。


 ただ、殿下だけじゃなくて軍人さんたちもこの短時間で山越えをしたと後から聞いて。

 しかもその疲れを私が渡していたビスケットを利用してなかったことにした、なんて。


 もはやどこから何を言うべきか分からなくなってしまった私は、久々に開いた口が塞がらなかった。



(とりあえず、殿下はやっぱり規格外。でもそれについてこられる軍も、規格外)



 最終的に色々と諦めた私は、一人その結論に落ち着いていたのだった。





















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