第7話 薬の魔女7

 結局予想通り、貴族の娘たちはアタシの店にまたやって来た。まぁ、当然と言えば当然なんだけどねぇ。

 そこで聞き出した通りであれば、どうやら例の女は本当に平民だったらしい。平民である事を指摘しても、その女は何一つ反論しなかったらしいから。


(さて。そうなると、だ)


 いよいよ王弟の愛人説が濃厚になってきたねぇ。

 どうやら見た目は娼婦っぽくなさそうな感じらしいから、これはもうほぼほぼ確定だろう。


(王弟め。媚薬は運よくかわしてるくせに、声を上げられない女を捕まえてやることはやってんのかい。だったらいっそ、アタシの薬で狂えばいいのに)


 むしろその女に媚薬を持たせれば、何一つ疑うことなく飲ませられるかもしれない。

 ただ、それをするには……。


「あの平民の小娘を追い出すための、何かいい薬はないの!?」


 目の前に立つこの令嬢達は、邪魔になる。


(いやむしろ、一度追い出させるか?その後にアタシがその女を捕まえて、いいように操れば問題はないね)


 平民を城の中にまで侵入させるのは、若干骨が折れる作業だろうけど。出来ないわけじゃあ、ない。

 むしろこの令嬢の娘たちが侵入しても、王弟は気づかなかったんだ。前に置いてこさせた薬だけでも、かなりの効果が期待できる。

 それを、城中に置かせれば。今後はアタシ自身が潜り込むことすら、簡単に出来るだろう。


(まぁ、そんなことはやらないけどね)


 危険からは遠ざかっておかないと。高みの見物をするからこそ、面白いんだ。


「追い出すなんて、過激だねぇ」


 貴族令嬢にしては、だけどね。

 これがもっと別の人間たちだったら、毒殺やら暗殺やらかなり物騒なことに手を貸せって言われてるとこだよ。

 ま、足がつかない毒ってのも興味はあるけどね。今のところそれを作るつもりはない。

 考えなしのバカは、そういうのを簡単に作って簡単に売るから、身を滅ぼすんだよ。アタシはそんな愚か者にはなりたくないね。


「殿下のお側にいられるのは、わたくしたちのような生まれの存在だけよ!!」

「汚らわしい平民ごときが城の中にいるだけでも耐えられないわ!!」

「この間の香水だって、そこまで効き目はなかったじゃないの!!」

「……薬屋?わたくしたちが欲しいのは、すぐにでも目障りな存在を追い出せるものなの。その辺りをしっかりと理解した上で、薬を出しなさい?さもなければ……分かっているでしょうね?」

「おぉ、怖い怖い」


 たいした力もないくせに、小娘たちが偉そうに。

 だが、まぁ……今回は特別に色々と用意してやっているからね。もちろんその分、金もふんだくるけど。


「香水は全て使い終わったんだろう?それなら、準備は万端じゃないか」


 五人でひと瓶使い終わるほど、毎日のようにその女の元に通っていたのならば、準備は上々。

 あとは、最後の仕上げだけ。


「いいかい?今からお前さんたちに出すのは、他の客には渡したことがない特別なものだ。誰にも言わないと約束できるのなら、とっておきを教えてやろう」

「平民の小娘について、口外するなと言われた約束は守っているでしょう!?」


 そう。それは実は、前回さりげなく使っておいた魔法陣の効果。女の存在を他の貴族たちに知られて、アタシの知らない所に連れていかれたら困るからね。

 この娘たちもおつむの方は空っぽみたいだったから、王弟の愛人を自分の家の娘として引き入れる貴族がいるかもしれないなんていう嘘に簡単に騙されてくれた。

 ま、実際嘘になるかどうかはまた別問題だけどね。

 そのあたり、やろうと思えば貴族には簡単にできるんだろう。そうして王族に嫁がせれば、血の繋がりなんてなくても成り上がれる。

 ホントに、汚い世界だよ。


「今回に関してはね、今までの薬とは比べ物にならないほどの効果があるんだよ」

「それなら初めからそれを渡しなさいよ!」

「まぁまぁ、焦るんじゃないよ。むしろその香水を使い切った今だからこそ、効果があるんだ」


 そう、だって。

 アタシのとっておき。


「薬の効果を最大限発揮できる魔法陣を、お前さんたちに特別に使わせてやろうじゃないか」


 どんなに強情だろうと、この魔法陣の前では関係ない。

 ひと瓶使い終わるほどの何を口にしていたのかは知らないけど、少なくともこの娘たちの言い分は例の女の意識の中には既に存在しているはず。

 それならあとは本人の意思を無視して、本当のことだといい。

 そのための、香水だ。


「それで?そんな話を、わたくしたちが信じるとでも?」


 まぁ、そう言うだろうと思っていたさ。

 だから、ね。


「そんなに疑うのなら、見せてやろう。誰かほら、出ておいで」


 あらかじめ用意しておいた魔法陣を書き込んだ紙を、わざと見えるように手に持って。反対の手で手招きしてみせる。

 効果を見てしまえば、疑う余地なんてないからね。


「……あなた、お行きなさいな」

「わ、わたくしですか!?」

「あなたの兄が言い出したことでしょう?最後まで責任を持ちなさい」


 兄の責任を妹が負う理由もよく分からないが、まぁ誰でもいい。

 たぶん今指示を出した娘が、この中で一番偉いんだろうね。娘自身がじゃなく、家が。

 今回の計画が成功すれば、この娘が王族になれる可能性が最も高いってところかねぇ?それなら少しは贔屓してやってもいいかもね。


「わ……わかりました……」


 どう見ても分かったって顔じゃないけどね。

 でもまぁ、素直に出てきたのなら時間もかからないしちょうどいい。


 さて、じゃあ。実演販売と、いこうかねぇ。




















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