第2話 アマネ・クニトミ

直情一徹、前へ前へ。

アマネ・クニトミは女性としては稀有な才能を有して生まれた。幼少期はあのソウタ・クニトミの末裔だからだろうと七光りに曇ってしまっていた彼女の才能も成長と共に誰もが七光り以上の別の閃光の持ち主であると考えだし、認めだした。

彼女の中には輝く大きな鈍色の閃光が存在していた。


前へ前へ。彼女は正面突破することで人生を切り開いてきた。本来ならば斜めから切り込めば安易に開く扉も、彼女はどこかでわかっていながらも正面突破をこころみた。それが彼女の性分なのだといつも笑っていたのは父親と父方の祖父だった。

父方の祖父はソウタ・クニトミの孫にあたる。

アマネ・クニトミの逸話はすでにいくつもあった。

新しいところで言えば、自分の指揮官を飛び越えて幕僚長に直談判したことは有名な話である。それはルール違反であるけれど、彼女の理路整然とした言い分には誰もが反論することができなかった。

なお、彼女はこの春に27歳の若さで少佐に昇格したエリート軍人である。同期のなかで空中戦で彼女に勝てるものはいなかった。平均的な飛行技術を持った、先輩たちも舌を巻くほどに彼女のピンポイントに撃ち落とす能力はずば抜けていた。


彼女はどんな戦闘機も操ることができた。しかし、彼女は好んでアタッカー(A)に乗りたいといった。なぜか。上官が世間話のつもりで彼女に聞いたことがあった。

彼女は迷うことなくあの、美しい笑顔を屈託なく向けていった、

「私は同等の能力の者と戦うために入隊したのです。そして私は正々堂々と戦うことが好きなのです。同等の能力者を撃ち落としてなんぼ、ファイターに乗って護衛にまわることがあるとしたら、それは私が作戦本部長を務めるときだけでしょう。ボンバーに乗り爆撃することがあるとしたら、それは退役前の時間つぶしでしょう」


過度の負けず嫌いだと嘲笑する同期もたくさんいた。しかし彼女はどこ吹く風であったし、正面から「そんなに悔しいのなら私を撃ち落としてみなさいよ」と笑い、宣戦布告したことも一度や二度ではない。訓練の時でさえ彼女に勝てる同期は一人としていなかった。


祖父はアマネを見てはよく言った、「男に生まれなかったことが本当にもったいない」ジェンダーという言葉が流行った歴史もこの地球にもあったが、CGに歴号が変わった今、人々が大切にしているのは持って生まれた才能をより活かして生きていくことであった。ゆえに、感性の違いによって「男に生まれたら身体能力のアドバンテージもなく、より高みを目指せただろうに」と祖父は残念がったのである。


アマネは戦闘機に乗ると決めたときに、恋人のアレックス以外の人間関係を切り落としてしまった。いずれ死がやってくる、その死は人よりも突然であるし多くの悲しみを想像してしまえばよい仕事ができない。そう判断したからだった。

誰よりも仕事を愛し、仕事にすべてをかける。強さ以上に大変不器用な女性でもあるのだ。


それを見込んでアマネは選ばれた。

あの鐘の音の中に言葉を聞いた3人は神に選ばれ、天使にもてあそばれる。言葉を聞いたことを自認した時に、彼らはゲートをくぐり自らの任務を受け入れたのだ。無意識にも、契約書もなく。


はじまる大戦の前夜、3人はグラナダの尖塔に閉じ込められる。それはもう少しあとのことだ。

グラナダは起点であり、回帰点である。帰着点でもあり、原点でもある。

地球の発端はあの日からすべてグラナダに集約される。


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