春夏秋冬代行者 夏の舞《上》

序文






「春夏秋冬代行者 夏の舞」






 冬は厳かに囁いた。


 汝の名は『夏』、春に続く者。


 大地に千紫万紅の美粧を施し、日華の光で世界を照らす者なりと。

 続いて冬は更に自らの生命を削り秋を創った。

 季節の誕生を傍で見守るのは冬の最愛の季節である春。

 春と冬の繰り返しを望まず、冬に救済を願い出た大地。

 一つだけだった季節は二つに増え、三つに増え、更に四つになろうとしていた。

 夏と秋、二つの季節は生まれた瞬間に使命を理解し冬に誓った。

 我らが祖よ、貴方と共に我らは季節を巡らせましょうと。


 冬がこの誓いを受け入れたので、季節は春夏秋冬と巡るようになったのである。


 四季達はそれぞれの背を追いかけて世界を回ることで季節の巡り変わりを齎した。

 春は冬を追いかけ、それに夏と秋が続く。

 後ろを振り返れば春が居るが、二つの季節だけだった時とは違う。

 春と冬の蜜月はもう存在しなかった。

 冬は春を愛していた。動物達が夫婦となり生きていくように、春を愛していた。

 春もまた、運命の如く冬を愛し返した。

 その密やかな情熱に気づいていた夏と秋は、彼らの為に提案をした。

 大地に住まう者に、自分達の役割を任せてはどうかと。


 力を分け与え大地を一年かけて巡り歩く、その名を四季の代行者。

 初めは牛に役目を与えたが足が遅く、冬だけの一年になった。

 次に兎に役目を与えたが途中で狼に食われて死んだ。

 鳥は見事に役目を果たしたが、次の年には役目を忘れた。

 どうしたものかと頭を抱えた四季達の前に、最後に人が現れ申し出た。

 自分達が四季の代行者となりましょう。

 その代わり、どうか豊穣と安寧を大地に齎して下さい、と。


 春と夏と秋と冬は、人間の一部にその力をお与えになり、冬は永遠に春を愛す時間を得た。






 かくして世に四季の代行者が生まれたのである。





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