暁の射手 ~春夏秋冬代行者外伝~

暁の射手 ~春夏秋冬代行者外伝~①




 翠嵐に暁が灯るのが見える。




 夜が終わる。すべて、事なきを得た。

 このひかりが、海を、山を、里を、世界を照らしていく。

 肌を刺すような空気が、やわらかく包み込む温度に変化していくのを身体全体で感じた。


 瞳に映るのは、宵闇に包まれていた空が少しずつ衣を脱ぐように変わる様。

 夜は毎夜死んで、そしてまた生き返るのだ。


 いま断ち切られた宵の天蓋も今日の内には蘇り、また空を星空で覆う。

 繰り返し続いていく毎日が、大いなる奇跡と犠牲によって作られていることを皆知らない。


 この景色を見る度にそれが少し口惜しい。


「朝は来たか」


 何時の間にか起きていたのか、暁の射手がかすれ声で聞いてきた。


「ええ、来ました」


 そうか、と安心したようにつぶやく。

 本当はそう思っていないはずだ。

 朝も夜も彼女を苦しめるものでしかない。

 他者の為に朝を齎すこと、それに生きがいを感じる方ではない。

 なのに毎度聞いてくる。

 そうであってくれと懇願するように。朝は来たか、と。





「良かった」





 貴方がもっと、我儘であってくれたなら、と俺は思う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る