第11話 イニシエーション・トゥデイ

「え〜っと、君は、え〜っとごめん」


名前が出てこないので、やばい。


14年前だけにあやふやだ。


美少女は怪訝そうに腕を組んで僕を見下ろす。


「変なの、初対面の人に会ってるみたいだよ、大丈夫?」


あっと心が叫ぶ、この子は未来香織みくかおりだ、思い出した。


「いや、大丈夫だよ、未来」


「なんか変だな、ぎこちない」


「春だからだろ」


「季節のせいにするあたりは積令せきれいらしい」


香織はやっと全身を緩めてる様子だ。


「また痩せたんじゃない?」


「それは言いっこなし、私太れないのよ」


香織は積令穂積せきれいほづみの前の席に座る。


今登校時か、時間はまだ7時半くらいだな。


そういや依子よりこはもう登校してるのかな?


17歳の依子は気になる。


突然バスの中心が空洞になって万華鏡のように色彩が散らばる。


急激に眠くなって、万華鏡の果てに吸い込まれる。




教室の窓辺の部屋に春の陽光が優しく撫でるように差している。


僕はうつ伏せから起きて、教室の中を見渡す。


今昼休みなんだろうか、誰もいない。


黒板には“イニシエーション貫徹”と大きく書き殴られてる。


書いたのはクラス一腕白な堂宋健次郎どうそうけんじろうだろう……。


そういや未来香織みくかおりを忘れるとは自分も呆けてるな。


2021(R3)3/29(月)







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