セオと僕の直観

加藤ゆたか

直観

 西暦二千五百四十五年。人類が不老不死を実現してから五百年。不老不死になっても僕は仕事をしている。残念ながら二十一世紀に生まれた僕らの世代は、生き続けるために、永遠と続く時間を持て余したために、それを手放すことが出来なかったのだ。



「それじゃ、行ってくるよ。」

 その日、僕はいつものように朝食を済ませ、職場へと向かおうとしていた。

「いってらっしゃい、お父さ……ん? あれ?」

「セオ? どうかしたか?」

 パートナーロボットのセオが玄関でいつものように僕を見送ろうとした時、セオは直観的に何かに気付いたらしく僕を呼び止めた。

「お父さん、体調大丈夫? なんか変じゃない?」

「体調? ……そう言われれば、少し喉に違和感があるような。」

「風邪かもしれないよ。今日は休めば?」

「これくらい平気だよ。」

 人類が不老不死になったと言っても、怪我をすれば治療が必要だし、病気になることもある。体内にウイルスが侵入すれば免疫機能によって風邪の症状が表れる。

「ほんとに?」

 セオが心配そうに僕を見る。ロボットのセオと僕は親子ということになっている。そういう風に僕が作ったのだ。

「ああ、大丈夫だ。行ってくるよ。」

 これくらいの症状なら大丈夫だ。そのうち治るさ。僕はセオの頭を撫でてから、職場に向かった。



 ところが午後になると熱が上がってきたようで、頭がまわらなくなってきた。体もフラフラしている。

「大丈夫ですか?」

 僕の職場の農場を一緒に見てまわっていた部下のロボットがそんな僕の様子に気付いて声をかけた。

「いや、どうやら風邪のようだ。今日は早退することにするよ。」

 今の僕の仕事は農場の管理運営だ。と言っても農場の業務のほとんどはロボットたちによって回されている。僕の仕事は、自分が管理する農場を見てまわったり、報告を受けたり、承認をしたりすることだけだ。それだって本当はロボットやAIだけでできるはずだが、あえて人間に権限を与えることによって、人間にも仕事を用意しているのだ。

 つまり、別に僕が帰っても誰も困りはしない。

「セオの言うことを聞いておけばよかったか。」

 セオはパートナーロボットなので、パートナーの人間のことを知り尽くしている。そしてロボットネットワークと通信することで、全世界のロボットが収集した情報や学習した情報と繋がることができる。そのセオが導き出した直観の精度はすごい高いということらしい。



「ほら、やっぱり。」

 家に帰ると、いわんこっちゃない、私の言う通りだったでしょ、とセオは得意気な顔を見せた。

 僕は自分で寝間着に着替えて風邪の薬を飲むと寝室で横になった。こういう時、セオは別に僕の世話を焼こうとはしない。それは別に僕が望むことではないので、パートナーロボットのセオはそのようには行動しないのだ。

「ゆっくり寝て治してね。」

「ああ。そうするよ。」

 セオは僕の様子を確認するとリビングに戻っていった。ドアの向こうでセオが立てる生活の音が聞こえる。ガチャガチャと何かを動かす音、漏れ聞こえる懐かしい歌謡曲、おそらく冷蔵庫を開け閉めする音、セオの足音……、僕はいつの間にか眠りについた。



 目を覚ました時、僕の熱は下がっていて少し体が楽になっていた。寝汗をかいている。寝ていた時間は三時間くらいか。まだ外は暗い。

「お父さん、起きた? お粥あるけど食べる?」

「ああ。ありがとう。」

 僕はセオが持ってきてくれたお粥に口をつけた。お粥はほどよく温められていて、梅干しが添えられている。僕が梅干しが入ったお粥が好きなことは、僕がセオに教えたのだっただろうか。

「熱は下がったね。でも食べたらまた寝て、明日は仕事休んでね。」

「そうだな。セオの言う通りにするよ。」

「うん!」

 翌日すっかり体調が戻った僕だったがセオの言う通り仕事は休んだ。セオは病み上がりの僕とゲームで対戦したがった。相変わらずゲームで僕はセオに勝てない。必ずボコボコにされる。

「ハハハ! お父さん、弱いなー!」

「手加減してくれよ……。」

「ダメだよ、これは勝負なんだからね!」

 そもそもこんな直観的な判断を求められるようなゲームで、ロボットとして高精度な直観力を持つセオに人間の僕が勝てるのだろうか?

「やったー! これで百勝だー!」

 隣で無邪気に喜ぶセオの顔を見て僕はため息をついた。

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セオと僕の直観 加藤ゆたか @yutaka_kato

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