第三話 転生したら勇者だった件
気がついたら勇者になってました。
……いや、そんな気はなかったんだよ!
ほんとだよ!
人間にはその内なってみたいなって思ったことはあるけど。まだ、魔物としての生活も日が浅かったし。
でも、討伐されちゃったから仕方ないよね。
……といっても、勇者に討伐されたわけじゃないんだけどね。
話せば少し長くなるけど、順を追って経緯を説明するよ。
*
リーパーになった俺は、ボロボロの建物の中をうろついて、雑魚モンスターを倒していた。でも、何度死んでもうっかりは治らないらしく、しばらくすると格上の魔物に目をつけられて殺されては、〈怨讐憑依〉の効果でそいつに乗り移っていた。そんなことを軽く二十回以上は繰り返したと思う。
最終的に、あの辺の魔物で最強と思われるデュラハンナイトという魔物に殺され、そいつに憑依転生した。
ステータスはこんな感じ。
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【ステータス】
種族:デュラハンナイト
名前:なし
Lv:225
HP:4097/4097
MP:2934/2934
スキル:怨讐憑依、鬼火、
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デュラハンナイトになってからの戦闘は、ただのヌルゲーだった。どんな魔物もだいたいワンパンで片付いた。
ゴースト? あんなの空気だから、殺す価値もないよ。
そんなわけで、ここらでやることはなくなったと判断した俺は、ボロボロの建物やその周りの墓地みたいなところを出て行くことにした。
この廃墟プラス墓地の周りには、見渡す限りの森が広がっていた。
一方の先には山があったので、俺はその反対側に向かってひたすら進んでみることにした。平野だったら、人が住む町なんかもあるんじゃないかな、と思ったのだ。
そうやって、首の無い馬に跨ってしばらく進んでいたところ、この世界で初めて俺以外の人間に会った。このときの俺は人間じゃなくて、デュラハンナイトだけど。
ここで会った人間は四人。戦士っぽい格好の男、魔法使いっぽい格好の女など……これは、冒険者ってやつかな?
デュラハンナイトである俺に遭遇した四人は、予想外だったのか、めっちゃ慌ててた。
「デュ、デュラハンっ!?」
「な、なんでこんなところにデュラハンが!? ――まさか、あの廃城から?」
「勝てっこない! 逃げよう!!」
そんな感じで、冒険者たちは回れ右をして一目散に逃げだした。
今にして思えば、このとき冒険者たちを見逃したから、あんなことになってしまったんだよね。
何の恨みもない冒険者たちを殺そうとは思わなかったけど、追いかけていたら、もしかしたら別の選択肢もあったかもしれない。
ともあれ、冒険者たちはこの辺り一帯を治める領主のいる領都まで向かった。そこにたまたま滞在していた勇者カインが討伐の依頼を受けたってわけだ。
カインには一人の従者がいた。それが聖女ジャンヌだ。
討伐の依頼を受けた二人は、俺のいた森の奥に向かった。そこで俺たちは出会った。
もうわかったかもしれないけど、デュラハンの俺を倒したのはジャンヌだ。
カインは俺を首無し馬から引きずり下ろし、馬を相手にして戦っていた。その間に、俺はジャンヌにやられてしまったというわけだ。
知らなかったけど、聖女が使う聖魔法はアンデッドに特効なんだね。これまで魔物として獲得してきたスキルを駆使して奮戦したけど、相性が悪すぎたみたいだ。ジャンヌは美少女だったから戦いづらかった、というのもなくはないけど。
ジャンヌに殺された俺は、彼女に憑依転生した。このとき、俺はこの世界に来て初めて、ようやく人間に戻ることができた。
ただ、人間っていうのは魔物と比べて遥かに記憶が鮮明で、量も膨大だ。
俺がジャンヌに憑依した瞬間、彼女の記憶が怒涛のように頭に流れ込んできて(実際には逆のことが起こったのかもしれないが)、俺は混乱してしまった。
そのせいで、カインに殺される瞬間には何の抵抗らしい抵抗もできなかった。
デュラハンとの戦いで消耗していたのもあるけど、最大の敗因は憑依直後の混乱だ。
そう、この勇者カインこそが聖女ジャンヌを殺した殺人犯だ。
一見ちゃんとした勇者なんだが、中身はとんだクソサイコ野郎だった。
こいつは人を殺すのが大好きな狂人なんだ。だけど、勇者になってからは大っぴらに殺人なんかできないし、最近はジャンヌにべったりとまとわりつかれてたから、隠れて誰かを殺すってこともできずに、めちゃくちゃストレスが溜まってたみたい。
デュラハンと一対一の状況を作り出したのも、カインの策略だった。デュラハンの馬なんかこいつにとってはいつでも殺せる相手だったけど、わざと時間をかけてジャンヌの援護をしなかった。
そして、デュラハンに止めを刺して無防備になったジャンヌの背後を取り、首を刎ねたのだ。
以上が、俺が勇者カインとして生きることになった経緯だ。
……目下の悩みは、聖女の死をどう誤魔化すか、ということである。
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