坊主が屏風に上手に坊主の屁をこいた……③

『ボーズランド』新装開場当日──修行僧の朝は早い。

 制服の作務衣姿で、広場に整列したオレたち修行僧が最初に行うのは「南無~っ」の合掌挨拶からだった。

 開場前の木魚の音と、念仏がスピーカーから流れる中。

 檀家の人たちに対する、おもてなしの注意点と。

 本日のイベントスケジュール確認が行われる。 

 新装開場日の今日は、スキンヘッド界の人気女性アイドルグループ、BGF〔ボーズガールフレンド〕48の特別ライブがある。

 全員がテッカテッカのスキンヘッドで、テカり具合のファン投票で毎年ライブのセンターが入れ替わる。 

 夕刻には、坊主や尼の顔を模した巨大な車両がランド内をパレードする。

『エレクトリック・ボーズ・パレード』もある。


 そして開場時間がやって来た。楽しげに入場してくる檀家を両側に並んだオレたち修行僧が合掌で、おもてなしをする。

「南無~っ」


 開場一時間後──ボーズランドの各種アトラクションにも、檀家の列ができはじめていた。

 一番人気は、極楽から奈落までの高低差を一気に急降下するアトラクション『説教マシン』だった。

 二人乗りの座席の片側に袈裟けさを着た坊主が乗り込み、檀家のお客さんに向かって。

「お主はなぜ、ここにいる! お主にとって人生とはなんぞや!」

 禅問答の説教をされた檀家のお客さんは。

「わかりませーーん! ぎゃあぁぁぁ!」

 と、悲鳴を発する。


 他にもアトラクションで人気なのは、海に見立てた池の中から全身を青く塗ったフンドシ姿の坊主が、船上に登ってくるのをウレタンの叩き棒で撃退する。

『シーボーズ』も大人気のアトラクションのひとつだった。


 ボーズランド内に、グッズ売り場で買ったスキンヘッドのカツラを被って、楽しげに歩く家族連れが目立ちはじめる──何もかもが坊主づくしの夢の国だった。

 BGF48の特別ライブも無事終了して。

 スキンヘッド頭触り券で、BGF48の頭をファンが撫で回すイベントも、何事もなく終わった。


 夕刻──光で彩られた巨大な坊主や尼の顔車両が、次々と通過していく幻想的な『エレクトリック・ボーズ・パレード』を眺めるオレの隣には、一緒に面接を受けたスキンヘッドの女子高校生が並び立ってパレードを眺めていた。

 女子高校生がポツリと呟く声が聞こえた。

「綺麗だね」

 オレと女子高校生は、いつの間にか手を握り合って坊主のパレードを見ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る