【KAC20213】直観的に考えても原因はお前だし俺にも責任あるかもしれないけど被害者だよな?

@dekai3

どうかと思うぞ、高橋…

「イトちゃんの所に行こう」


 そう言った高橋に案内されたのは俺が500年前に働いていた会社のオフィスの入っていた駅前のオフィスビルだった。




◆ ◆ ◆




『イトさんも、まだ生きているのか?』


 陸上戦艦の砲撃によって破壊された超高速道路から飛び降り、俺と高橋が乗っているコックピットブロックをガレキに見せかけて射出し、無人となった装甲車を海の方面へと自動操縦で走らせて追手の目を一時煙に巻き、そのまま地面に穴を空けて首都圏外郭放水路の中に潜り込んで一息ついたところで再度高橋にイトさんについて尋ねてみた。

 イトさんは俺が部署を任された時に上司の指示で異動してきた事務担当で、年齢は俺達と同じぐらいだが愛嬌と明るさでやや幼く見える女性だった。女性ならば誰にでも粉をかける高橋にしては珍しく仕事上の付き合いしかしていなかった相手だけど、たった三人しか居ない部署で気まずい思いをするのは高橋も嫌だったんだろうと思ってあまり気にしていなかった。流石に彼女も高橋の様な自称【超越者】ではないと思うけど、俺達と同じ様に500年生きているという事は特別な何かがあるんだろうか。


「まあ、会ってみれば分かるって。お前絶対驚くぞ」


 それとなく聞き出そうとしても、はぐらかすだけで教えてくれない高橋。

 仕方ないので俺はガレキの中から使えそうな部品を集めて簡易的な車両を作り、とりあえず高橋が言う方面へと放水路の中を走り抜ける。この放水路は100年程前から増えた突発性酸性集中豪雨による雨害から都市部を守る為に作った物で、俺がこの都市の設計を任された200年程前の時に後で改築が可能な様に余裕を持たせて確保しておいたスペースだ。都市部の下水や配送路とは別のラインで区切ってあるから複雑に入り組んでおらず、イメージとしては地下を流れる川を思い浮かべて貰えばいいだろう。基本的には酸性雨が流れる場所なので監視の目は緩い上に、通常の方法では穴を開けれないタイプの魔導結界板を使用しているので誰にも見つからずに移動する事が出来るはず。俺が行ったのは設計だけなので細部は把握できていないが、それでも地上を移動するよりかは全然マシだろう。何故か俺が狙われているだけじゃなくて高橋も追われているみたいだし。いや本当、何したんだよ高橋。


「え、俺? いーっていって、俺の事はいーからイトちゃんのとこに行ってお前の今後をどうするか考えようぜ」

『かなりやらかしてるだろお前…俺は助けてやらないからな?』

「えー、俺と五十島の仲じゃ~ん。困った時はお互い様だろ~?」

『困る様な事をするんじゃねえよ!』


 いつもの軽口を叩きながら、高橋のファジーな案内で放水路を都市の縁外部へと走らせる。

 500年経っていたとしても都市の大まかな形は変わっていないので、高橋のファジーな説明で案内されている内に俺もあやふやな記憶から目的地が一体何処なのか朧気に理解していた。

 高橋がイトさんの場所として案内したのは俺もよく知っている場所であり、500年前にはよく訪れていた場所である、俺達の会社が入っていたオフィスビル。

 確かを知らないから俺の中でのイトさんの居場所と言ったらここしか思い浮かばない。


「全てはここから始まった。そう思ってるだろ、五十島」


 放水路から地上へと出て、当時と全く変わっていないオフィスビルを見上げながら高橋が珍しく真面目な口調で俺に話しかける。

 高橋の言う『全て』が俺の考えている『全て』と同じなのかは分からないが、確かに俺はこの500年間の出来事の始まりはこのオフィスビルに入社した事か俺が一部門を任された時から始まったと思っている。

 高橋と出会ったのも入社してからだし、新入社員だった俺はだいたい前任者のわけわからんコードを同じ様にわけわからん前任者のマニュアルに従って書き換えていただけなのでちゃんとした何かを作ったのは部署を任されてからだったし。


『高橋。お前、一体何を知っているんだ?』


 俺はオフィスビルを見上げる高橋にそう返し、そう言えば俺は高橋が社内の女性に手を出していたり営業先で凄く適当な事を言って面倒くさい仕事を取って来るという事は知っていても、高橋のプライベートや入社前に何をしていたのかは聞いた事が無かったのを思い出す。

 先程、『社長からお守りを仰せつかわれた』とも言っていたし、こいつは俺の知らない何かを知っている可能性は高い。


「俺が知っているのは原因だけだ」


 高橋はそう言い、ゆっくりとした足でオフィスビルへと向かう。その顔は高橋には珍しく決意を決めた様な、それでいて諦めも含んだような顔をしていて、さっきはいつもの様に軽口を叩きあっていたけど、こいつも500年の間に色々あったのかもしれないと考えさせられる。


「俺がちょっとフカした話をしてクライアントがめちゃくちゃな仕事を振ってきても、五十島が余りにも優秀で色々と作れちまうもんだから、世界はこうなっちまったんだ」

『は???』


 思わず声が出た。


 いやいやいやいや、それ俺が原因? 確かに俺も最初な単なるプログラミングが出来るだけの人間だったのにあれもこれもやらされて気が付いたら都市開発に関わったりロボットや義体なんかの機械工学に関わったり精神波と電磁波による認知行動のあれこれみたいな500年前だったらオカルトって呼ばれていた技術にも手を出したりとか明らかに一人の人間に押し付ける量じゃない仕事をこなしてきちゃったけどさ、それって結果的に考えても直観的に考えても原因はお前だし俺にも責任あるかもしれないけど被害者だよな?え、お前がフカすもんだから俺が迷惑を受けててたんだよな? なんで俺が原因みたいに言う? しかもそれを言ったら俺が500年もテレワークしてしていたのもお前が原因じゃねえか。だから俺は効率化の為に人間の姿を止めてバレーボール大のコアユニットが本体の姿になったんですが??? これはこれで便利だからいいんだけど今更になってお前は生身のままってのがなんかムカつくわ。お前も義体化ぐらいしろよ。なんでそんなかっこつけた言い方で俺に責任をおっかぶせる様な事言えるのかなぁ…お前さぁ、本当そういう所だぞ。そういう所があるから女性社員から手作りの爆弾を貰う事になるんだぞ。爆弾を回避する方法を聞いてきたのが比喩じゃなくて物理的な事だったのはマジで驚いたわ。あー、もう。あの時爆発に巻き込まれて半身不随とかになってりゃ良かったんじゃねえのお前。本当、その『自分は悪くありません。周りが勘違いするのが悪いんです』みたいな考え方さぁ、どうかと思うぞ、高橋…

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