手紙




 過去の聖女の様子を聴きながらしていた着替えも終わり、またシェケルが待機している礼拝堂? に戻ってきた。

 

 服は先ほどと違って着やすさ重視というか、割とラフな感じの服装になっている。全く華美ではない素朴な服。

 ただ、結構露骨に体型が露わになる腰回りがタイトな感じの服なので、素朴な風合いの割に聖女の体付きが良いからこそ色っぽいというか、ちょっと恥ずかしい感じに見える。


 これはたぶん、俺があっちの世界の感性を持ったままだからそう感じるんだろう。婆さまは普通に着せてきたし、当たり前のように替えの服として出てきたのだから、割とこんな感じの服はこの世界では当たり前のものなんだろう。

 まあ、そう思いたい、というのもあるが。


 それで、礼拝堂に戻ってきたわけなんだが、なんかやけにシェケルの様子が暗い。さっき別れるまで、ここまで落ち込んでいる気配はなかったんだが、もしかして一人になったことで、いろいろ考えてしまったのかね。


「シェケル、戻ったよ」

「……ん、あ」


 下を向いたまま惚けていたシェケルだったが、婆さまの声掛けで俺たちが戻ってきていたことに気づいて顔を上げた。


「また、変に考え込んでいたのですか」

「あ、えっと」


 やっぱり聖女のことで思うところがたくさんあるんだろう。俺が転生してきたのもあって、さらにあれやこれや考えこんでしまうのかもしれない。ちょっと申し訳ない。


「前も言いましたが、もう終わってしまったことです。悔やんだところで先には進めません」


 そう言っているシェケルだったが、表情がどう見ても引き摺っているがわかる程度には陰っていた。


 これはやっぱり俺の言葉であれこれ伝えるだけじゃだめだよな。


「ちょっと失礼」


 若干蚊帳の外にいた俺がそう言葉を出したことで2人の視線がこちらを向く。


「どうしましたか?」

「せ、えっと」


 シェケルが明らかに聖女と言いかけているが、2人言葉を無視して俺は礼拝所の奥に設置されている台、うろ覚えだが主祭壇っていうんだったか、その場所まで行って、その中に隠される手紙を2枚取り出した。

 取り出した感じ、聖女が仕込んだ時と様子が変わっていなかったので、誰にも見つかっていなかったようだ。


「それは?」

「祭壇には物を置いたままにしたことはなかったと思うのですが」


 これの存在を知らなかった2人は俺が取り出した物を見て首をかしげている。どうして俺が今これを取り出したのか、どうしてこれがあることを知っていたのかまではまだ気づいていない様子。


「…まさか」


 最初は首をかしげていたが婆さまはすぐ気づいたようだ。シェケルも疑問顔でなくなっているから察しているようだが、それ以上の変化がない。もしかしたらこれがどういうものなのか理解を拒んでいるのかも知れない。


 まあ、この状況で俺だけが知っているものが出てくる、なんて可能性としては1つだけだよな。


「これが婆さま宛だ。あくまで主な相手が婆さまだから他の奴相手の内容があるけど、その後どうするかはそっちで判断してくれ」

「まさかこのようなものがあったとは」


 手紙を受け取った婆さまは驚いた様子だったが、少しだけ泣きそうな気配を出しながらその手紙をじっと見つめていた。


「それでこれがシェケル宛だ」


 そう言って俺がそれを差し出すとシェケルは震える手でその手紙を受け取った。しかし、受け取っただけで中を確認しようとする気配はない。


「シェケルはちゃんと読めよ」

「後でじゃ駄目…ですか」


 日和った態度のシェケルに俺は盛大な溜息をつく。


「ここじゃなくてもいいから今読め。後でだと余計に読み辛くなるぞ」


 聖女の記憶の中にいるこいつなら、くぎを刺しておかないと後で読むとか言いながらずっと読まずに保存しておきそうなんだよな。


「うっ」


 その状況がありありと想像できたのか、シェケルは気まずそうな、気の進まない表情をして手紙を見つめていた。





 ―――――

 手紙(遺書っぽい何か)


  

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