シェケルの独白
ちょっと暗くて支離滅裂な部分がありますが、若干病んでいるシェケルの内情なのでそういうものだと思ってください。
—————
「ふはぁ」
聖女さ……いえ、あの人が婆さまに連れられて聖堂から住居区へ移動していったのを見送った僕は、聞かれないようある程度時間を置いてから大きく息を吐いた。
まさか、また聖女様に会えるとは思っていなかった。中の人は違うみたいだけど見た目は完全に聖女様だ。仕草も話し方も本当にそっくりで、聖女さま本人なんじゃないかと疑ってしまうほどに似ているけれど。
……でも、聖女様が生き返ったわけではない。それは理解している。あの時本当の聖女様は亡くなった。
聖女様によって住居区にある自分の私室に閉じ込められていたからその場を直接見たわけではないけれど、部屋の中にまで聞こえて来た悲鳴は今も覚えているし、未だにその悲鳴が聞こえている気がしてならない。
聖女さまが亡くなってまだ数日。……もう数日が経っている。
僕はこの教会の司祭として、いつまでも引きずっているわけにもいかないのはわかっている。理解している。
これが他の人だったならばすぐに切り替えることもできたはずだ。
だけど、亡くなったのは聖女さまだ。そう簡単には切り替えられない。
どうして聖女さまは亡くなったんだろう。
この時を納める領主が悪どい人物だったからか? 教会の運営に領主の助けが必要だったからか? 教会本部の対応が遅かったからか?
……違う。僕に力がなかったからだ。
領主がああいう人物だったのは最初からわかっていたことだ。教会の運営だって地域のお金を使っているのはどこだって同じだ。教会本部の対応だって別に遅くはなかった。ただただこの地が地位すぎただけだ。
少しでもあの領主の行動を止めるだけの力が僕にあれば聖女さまは自ら死にに行く必要はなかったんだ。
無力は罪だ。
だから全部僕のせいなんだ。
この教会で一番力があったのは僕で、聖女さまを庇わないといけなかったのも僕なんだ。
あの時もっと強く聖女さまを制止出来ていれば、少し前に届いた教会本部からの制止命令が間に合ったかもしれない。
僕がもっとしっかりしていれば……
違う。聖女さまは僕がこんなことを考えることを望んでいないはず。
……駄目だ。
1人になった途端、こんなことを考えてしまうのは良くない。あの人に会う前だって、余計なことを考えないように必要のない夜の見回りをしていたんだ。
もうこんなことを考えるのはやめないと。
「はは」
乾いた笑うが口から漏れる。
そう思って簡単に切り替えられればここまで苦労していない。
実はあの人は聖女さま本人なのでは? 僕のことを驚かせるために知らないふりをしているだけで……
そんなことがないのはわかっているんだ。
聖女さまが亡くなっているのを確認したのは僕だし、その弔いを主導したのも僕だ。
どんな状態であれ、僕が聖女さまを見間違うことは絶対にない。
絶対にあり得ないんだ。
聖女様の笑顔が好きだった。
楽しそうに僕の名前を呼んでくれることが好きだった。
僕が話しかけると嬉しそうにしてくれた聖女様が本当に好きだった。
でも、それを見ることはもうできない。2度とあの聖女さまに会うことはできないんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます