やっぱ青年じゃなくて少年じゃね?
墓地を出て、近くの建物の中に入る。前を先行している青年が神官のような服装をしているからここは教会なのだろう。
俺の中に教会と墓地が隣接しているイメージはあまりないが、こちらの世界ではこれが普通なのかもしれない。いや、そもそも俺が知らないだけで、元の世界でもこれが普通なのかもしれないけどな。
「ああ、そうです」
「うん?」
迷いなく歩を進めていた青年の足が不意に止まる。そして俺の方へ振り返ってきた。
「今の時間帯ならおそらく外には誰も出てはいないと思うのですが、見てすぐ聖女様とわかる格好で外に出るのは良くないと思うので、全身を隠せるコートを持ってきますね。ちょっとだけ待っていてください」
「え、あぁそうだな」
外の暗さからして夜中だろうし、人が出歩いている時間ではなさそうだけど、この姿を見られるのは良くないよな。そもそもすでに死んでいるはずの人間が出歩いていることがわかれば、どうなるかは想像に難しくない。
うーむ、コートを用意してくれるのはいいんだが、出来れば着替えたいんだよな。さっきから動くたびにゴワゴワと言うか、服の中に土が入っている感じがして気持ち悪いんだよな。
まあ、棺に入っていたとは言え、土の中に埋められていたから仕方ないんだけどさ。しかし、できればどうにかしたいところだ。
服を脱いで土を払えばマシな状態にはなるだろうけど、青年がいつ戻って来るかわからないし、いくらこの体に俺の意識が入っているとしても、さすがに他人の体だから薄着になるのも裸を見るのも気が引ける。そんなことを言ったら、着替えも出来ないから、どこかで折り合いをつける必要はあるだろうけど。
まあ、それは良いわけで、実際はどうやってこの服を脱げばいいかわか🄬ないだけなんだがな。女物の服はよく知らないし、そもそも昔の服には1人で脱ぎ着出来ない服もあったらしいから、わかったとしても脱げないかもしれん。
「すいません。お待たせしました」
「いや、気にするな」
青年がコートと思われる折り畳まれた布を持って戻ってきた。それを見る限りそのコートにはフードもついていそうだ。
「このコートを着てください。それとこれは少し硬めのチョーカーになります。頭……首を固定するために使えるかもしれないと思って持ってきたのですが」
青年がコートと一緒に差し出してきたのは少し幅がある皮製と思しきチョーカーだ。俺はファッションには疎いから、チョーカーの何がいいのかわからないし、正直首輪にしか見えないからそれほど好きなものではない。
しかし、確かに固定するのには向いているかもしれないし、青年が持ってきたサイズなら可能だろう。
「確かに使えそうだな。これでコートについているフードを被れば、多少動いても落ちなくはなるだろうな」
ただ、問題がある。このチョーカーはベルト型だから両手を使うことになるんだが、これの場合、頭を固定しながらでないとチョーカーは付けられないだろう。残念ながら俺1人では付けることは出来ない。
「何か問題でも?」
「いや、渡されても1人で付けるのは無理なんだが」
「そう……ですね?」
あ、あれ? それはそうだろうみたいな邪気のない顔で返されたんだが!?
「どうしろと?」
「はい? …………あ、ああ! すいません。いつも聖女様のおつけになる装飾品で一人でつけづらい物は僕が着けていたので、今回もそのつもりでした」
「そういう事か」
そうだったのか。まあ、聖女の立場を考えればおかしくはないか。あっちの世界でも昔の貴族は使用人に着替えを手伝って貰っていたとか、聞いたことがあるし変な事ではないな。
……こいつ、さすがに着替えとかは手伝っていないよな? こいつは見た目はあれだが男で、聖女は女だ。……いや、着替えはおそらく侍女みたいのが付いていて、そいつが手伝っていたのだろう。そうに違いない。
とりあえず、渡されたコートを羽織る。コートは腕を通す部分がないやつだった。外套ってやつか? まあ、聖女が着ている服が隠せればなんでもいいけど、腕が直ぐに出せない、となると転んだ時に受け身が取り辛いから少し不安だな。
「すいません。頭を固定してもらっていいですか」
「あ……ああ」
青年はいつの間に持って来ていた台の上に乗ると、俺の首にチョーカーをつけるために顔を近づけて来た。俺は首がずれないように頭を持ちながら青年の顔を見た。
まつ毛長いなこの青年。いや、何て言うか、うん。美少年顔だわ。美少年。何処からどう見ても美少年。青年ではない。と言うか、本当にこいつは青年と言える年齢ないのか? 結局は自称でしかないから、偽っていることも否定できないんだよな。
「出来ました。どうですか?」
「うーん……問題はなさそうだな。ただまあ、少しでも前かがみになれば落ちそうだが、歩くぐらいなら問題ないか」
頭を軽く押さえつつ、少し体を動かしてみるが、多少動いた程度ではチョーカーで固定された頭は落ちそうにはならなかった。これでフードを被れば、殆ど問題は無くなるだろう。
「それは、良かったです」
そうして、身バレを防ぐためのコートも着たので、教会の中から外に出ることになった。
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