首無し聖女、見つかる?
うぐぅうう。
頭が胸にぶつかったことで胸部に痛みが走る。頭は、どうやら痛覚が無いらしく痛みはない。それが唯一の救いか。正直、頭にも痛覚が有ったら酷いことになって良そうだしな。思いっきりごりっって音が頭の中に響いたし。
今どうなっているかっていうのは体の感覚から何となくわかって来る。どうやら俺の体は丁度胸部、まあ胸で頭を押しつぶしている状態の様だ。
薄らある頭の感覚からおそらく俺の顔に胸が押し付けられた状態だろう。横を向いていたら多少視界が明るくなっているだろうから、そうだと思われる。地面側に顔が向いている可能性もあるが、ギリギリ柔らかい何かに当たっている感覚があるのでそれは無いだろう。
なるほどなぁ、コレがいわゆるらっきーすけべってやつかぁ。ハハ。
何つーかあんまりありがたみが無いなぁ。むしろ痛みの方が強かったし、実際あんなことが起きても、キャーエッチ、なんてやる余裕ないよな、痛すぎてそれどころじゃねぇわ。押し付けられている顔の方は殆ど感覚がないみたいだし、特にそう思う。
まあ、どっちも俺の体だからそう思うだけかもしれんが。
何だかむなしい気持ちになりながら体を起こして地面に座った後、押しつぶしていた頭を回収する。
触った感じ、潰れているような感じはないな。
頭、磁石みたいにくっ付くと思ったんだけどな。これはこれからどうやって頭を首に固定するかを考えないといけないのか。
そう言えばすげぇ今更だけど、ここってどこだ? 今まで俺の体のことで一杯一杯だったから気にしていなかったけどさ。
頭を持った状態で周囲を見渡せるように、左右に頭を振る。
ああ、まあ、納得できるが、ここ墓地だな。しかも、割かし新しめの。
で、その墓地の中で一か所だけ何か掘り起こされたような跡が見える。まあ、おそらくあそこが俺、と言うかこの聖女が埋められていた場所だろう。
確認…はする必要は無いか。それよりも、この後どうするかだよな。どう考えてもここに居続けるのは無理な話だし、何処か止めてくれるような場所もないだろうからな。
ううーむ。どうしようもないな!
どう考えても詰んでいるだろう、これ。そもそも、見た瞬間に警戒されるし、魔物を家や宿に泊めてくれるような奴が居るかよ。
「どうしたもんかなぁ」
声に出してみるが、まあ意味はない。
しかし、本当に女の声になっているな。体もそうだが、ってそう言えばこの体って別に俺が思っていた理想ではないよな? もうちょっと慎ましやかな方が俺の好みだし。
これもなんかあったのか? あー、そう言えば誰の理想って明確に言っていないな。と言うことは、これは平均的な理想体型ってことか? どっちの世界のなのかはわからないが、そう言うことなのかもしれない。まさか、あの女神の理想じゃないだろうし……
「こちらから何やら声が聞こえて来たのですが、もしかして浮浪者でしょうか。あまりこの辺りでは聞きませんが、無いという事もありませんし」
うおっ!?
誰かがこっちへ来ているのだが、どうする。と言うか見つかるのはまずくないか!? まさか討伐される!?
まずい! まずい!
そう思うが、残念ながら近くに隠れられるようなところは見当たらない。あっちの墓石と違ってここにある墓石は小さくと隠れるには向いていない。どうやっても体の一部がはみ出る。
「声はこっちからでしたね? まさか、聖女様のお墓を暴くような輩は居ないと思うのですが」
うえっ!? これさらにやばくないか!?
あの墓の現状をどう見たって暴かれていると思うよな。実際は聖女自体が勝手に出て来たとしても、普通そんなことは考えないだろうし。
どうする? むしろ、自ら出て行った方がマシか?
「まずは、聖女様のお墓を確認しないと、もし何かがあったら問題です」
ちょっと待ってくれって! 一直線でこっち来るのかよ。急いでこの場を離れる……のは、無理だな。まだ上手く動けないし、確実に見つかる。
やっぱ、こっちから出て行った方がいいか?
あ、ランタンを持った小さいのが通り過ぎていった。割と近くに居たのだが暗いせいなのか気付かなかったな。
「聖女様のお墓はぁぁあああああ!?」
おい、今は夜だろう。大声で騒ぐなよ。まあ、気持ちはわかるけどな。
「待って、待って。嘘だ。遺体もない? 何で? 何で遺体が……」
凄いショックを受けているな。これ、今声かけても大丈夫か? いや、どのタイミングで声を掛けても同じか。
「おーい、そこの!」
「あれ、なにか聖女様の声が聞こえるような? 気の所為でしょうか」
おわ。あー、確かに死んだ人間の声が聞こえて来たら幻聴だと思うか。もう一回声を掛けよう。
「後ろを向けー」
「後ろ?」
お、今度はちゃんと反応したな。こっちを向いて、およ? 意外と若いな。いや、さっきのサイズ的に若いのは当たり前か。しかし、男の子か? それともボーイッシュな女の子か? どっちかわからないな。
「え?」
あ、ようやく俺に気付いたな。とりあえず、手でも振っておくか。
「ひぇっ」
「ひぇっ?」
ん? あ、これはまずい。とてもまずい。
「ヒャァアアアァァァアアァァアァアアアッ!!」
そう叫びながらランタンを持った子供?が脱兎のごとく、俺の横を通り過ぎていった。
「ちょっと待って!」
咄嗟に声を掛けるが、既に子供?は大分向こうまで行ってしまっている。
「いやぁぁあああ!!」
さすがにこの機会を失う訳にはいかない。
俺は直ぐさま慣れない体で立ち上がり、逃げた子供?を追いかけた。
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