第23話 募集要項

 ビーチェとの衝撃的な会談を終えて、新たな事実を知らされた私は、次回作の構想に打ち込みながらも頭の片隅で考えずにはいられなかった。


 この世界が乙女ゲームの世界だというのならば、この世界における自分の立ち位置はどうなるのか? ゲームの展開とやらにどう関わっていくのか? どういったストーリーなのかは不明だが、恐らく私はストーリーから外れた道を歩んでいるんだと思う。


 なぜなら、悪役令嬢らしいことを何もやっていないからだ。王子に恋したりしていないし、まとわり付いたりもしていないし、追いかけ回したりもしていない。寧ろ避けているくらいだ。


 今後、ゲームの強制力とやらが働き、王子と絡むことになるのかも知れないが、それでも私が王子に恋焦がれるようなことはないだろうし、将来の王妃という立場にも全く興味が無い。


 だからこそ思う。この世界は本当に乙女ゲームの世界なんだろうか? と。確かにビーチェが言う通り、登場人物の名前や設定はゲームの通りなんだろう。私も含めて。


 だが内容は? ビーチェに言った通り、私が学園に入学しなかったらどうなる? いくら強制力が働くと言っても、居ない者はどうしようもないのでは? それでストーリーが進むのだろうか?


 悪役令嬢が居なくてもストーリーが進むとすれば、それはもうゲームの世界とは言えないと思う。名前と設定がたまたま同じというだけで、全く違う世界だと思う。


 私はこの世界が、11番目の小説のプロットの世界であるとずっと思っていた。だからだろうか? ビーチェにゲームの世界だと言われてからも、まだ心のどこかでそう思っている。


 なにせ王子とヒロイン(だとまだ思ってる)と最初に絡んだのは、まだこの世界がそうだと思っていた時だったからだ。その因縁めいたものはどうやらまだ続いてるようで、


「いやマジかこれ...」


 今私が見てるのは、次回作に出て貰う新人女優募集のオーディションに、応募して来た人達の履歴書の1枚だ。名前に『レイラ・フォーレット』と書いてある。写真にはあの頃より少し大人っぽくなったピンク髪のヒロインちゃんの姿があった。


 信じられない。どういう神経してるんだろう? まさか主催者が私だって知らないはずはあるまい。分かってて送ってくるっていうことは、ある意味凄い度胸の持ち主か何も考えていないかのどちらかだろう。 


 前者だとしたらその度胸は買うが、恐らくは後者なんだろう。まぁ、どの道選考基準を満たしてないから没なんだけどね。ちゃんと募集要項に書いてあったんだけどなぁ。15歳以上って。ほら、後者でしょ?

 

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