第16話 ご挨拶

 挨拶のために役者達と一緒に舞台へ上がる。


 王族や高位貴族を軒並み招待している手前、緊張するなという方が無理であるが、それでも良い作品を作り上げたという自負はある。胸を張って堂々と挨拶したいと思った。


「ご来場の皆様、本日はお忙しい中お越し頂きまして誠にありがとうございます。心より御礼を申し上げます」


 まずはしっかりと礼をする。


「さて、これから皆様にご覧頂きますのは、全く新しい娯楽文化になります。巨大なスクリーンに映し出される、臨場感溢れる映像と音声、若い役者達が溌剌として演じる斬新な物語、そしてこの映画を上映するため専用の映画館、どれを取っても王都に新しい風を吹き込むことになるでしょう。我が公爵家の威信を掛けて製作しました作品をどうぞ最後までご覧下さいませ」


 そして映画本編の上映が開始された。



◇◇◇



 最初の内は観客の反応が気になって映画に集中出来なかったが、次第に「あぁ、このシーン撮るのに苦労したなぁ」とか「編集作業で熱が入ってうっかり徹夜してしまい、マリアに怒られたっけなぁ」などなど。撮影の苦労話を思い出していたら、次第に涙が溢れて止まらなくなってしまった。


 約2時間の上映が終わり、観客が立ち上がって「ブラボー!」とスタンディングオベーションをしてくれている中、私は号泣していた。今までの苦労が報われたと思ったのと、観客の反応が嬉しかったのと、その両方に立ち上がれないくらい感激していた。


 本当は上映が終わった後もお礼と挨拶が残っていたのだが、父親が「良くやったね。君を誇りに思うよ。後は任せなさい」と挨拶を代わってくれた。その事にまた涙が溢れてしまった。ありがとう...



◇◇◇



「エカテリーナ! 素晴らしかったよ! 感動した!」


 やっと私が落ち着いた頃、シリウス王太子が挨拶に来てくれた。約3年振りに会う王太子は、立派に成長していて眩しいオーラ全開だった。


「来て頂いていたんですね。ありがとうございます」


「もちろん来るとも! 君の作品の大ファンだって言ったろ? もっとも最初の出会いの時は君が『カチューシャ』だなんて思いもしなかった訳だけどね」


「あぁ、その節は申し訳ありませんでした...」


「いやいや、そんなことは気にしなくていいんだよ。君の方にも都合があったことは理解しているつもりだからさ」


「あ、ありがとうございます...」


「それにしても惜しいことをしたもんだよ」


「えっ?」


「君が僕の婚約者になってくれていたら、僕は君をみんなに自慢出来たんだなって思ってね」


「ご冗談を。私如きに王太子妃など勤まりません」


「それはどうかな? まぁ僕はまだ諦めた訳じゃないけどね」


「冗談ですよね?」


「冗談じゃないよ? まぁ考えといてよ?」


 不穏な言葉を残してシリウス王太子は去って行った。せっかくの晴れの舞台に水を差されたような感じがして、私は不快な気分を味わっていた。


 

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