第15話 おねだり

 既存のオペラハウスで上映出来ないこともなかったが、どうせなら徹底的に拘りたかった。


 音響サラウンドを充実させ、巨大なスクリーンを全方向から楽しめるようにするためには、どうしても専用の映画館が必要だと思ったからだ。


 もちろん、建設には莫大な資金が必要となる。私は今まで稼いだお金を全部注ぎ込むつもりでいた。だが試算してみると、それだけじゃ到底足りないことが分かった。


 私は父親を説得して公爵家のお金を使わせて貰うことにした。そのために映画とオペラの鑑賞の違いから説明し、完成すれば画期的な設備になること、間違いなく王都の名物になること、映画がヒットすれば建設資金は何れ回収可能であること、我が公爵家に更なる繁栄を齎すこと、などを熱っぽく語った。


 その結果、拍子抜けするくらい呆気なく許可が下りた。父親は「君が稼いだ金なんだ。君の思うように使うといい」と言ってくれた。不覚にも涙が出そうになった。



◇◇◇



 撮影がスタートした。私も含めて当然ながら全員が映画作りの素人である。最初の数シーンを撮るだけで何日も掛かった。それでもメゲることなく全員で試行錯誤を繰り返しながら撮影を進めていった。


 上映時間は2時間を予定している。当初の構想では、悪役令嬢が冤罪で追放されるまでが1時間、協力者を得て復讐を果たすまでが1時間という割り振りだった。


 だがスタッフから「後半に向けて盛り上げるためにも、復讐する時間の方を多めにしたい」という意見が上がった。私もなるほどなと思い直し、脚本を変更することにした。


 撮影が進むにつれ、役者同士のケンカやスタッフ間の諍いなどが起こり始めた。いくらスポンサーで公爵家の令嬢であるとは言っても、私はまだ12歳の子供に過ぎない。それらの仲裁や纏め役には本当に苦労させられた。


 それでも次第に形になっていく作品を見ながら、ああでもないこうでもないと意見を言い合えるようになり、次第に家族のような結束力が生まれてきたように思う。


 撮影と平行して映画館の建設も急ピッチで進められていた。私も撮影の合間を縫って何度も足を運んだ。建築家とも相談し、どの座席に座ってもちゃんとスクリーンを見ることが出来るような設計にした。


 座席は一階席と二階席に分けて値段の格差をつける。更にその上に貴賓席を設ける。王族や高位貴族達にも気軽に来館して貰うための配慮だ。


 そうした紆余曲折の末、ついに私の初監督作品の映画が完成した。クランクアップの瞬間、大泣きしてしまった。感無量である。撮影開始から1年が経っていた。私は13歳になった。盛大な打ち上げパーティーを開いた。映画の完成とほぼ同時に映画館も完成した。


 そしていよいよ明日は王族や高位貴族を招いてのプレミア試写会の日だ。


 舞台挨拶に今から緊張してきた...

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