第14話 前に出る

 自分の書いた小説を映画化する。


 前世の引きニートだった私には想像も出来ないことだ。だが生まれ変わった私の中で、何か今までにない衝動が生まれていた。自分の作品をもっともっと多くの人に見て貰いたい。


 そのためなら人前に出ることも厭わない。そう思うようになっていた。やるからには徹底してやる。私は脚本、演出、監督、プロデュース、全て熟すつもりでいた。さすがに演じるのは無理だが、それ以外は他人に任せる気はなかった。


 私はまず、自分の書いた作品の中から、庶民にも貴族にもウケが良かった一本を選び出した。ストーリーはこうだ。


 悪役令嬢が公衆の面前で、婚約者である王子から婚約破棄を告げられる。断罪された悪役令嬢は庶民の底辺に落とされる。しかしそれは冤罪であった。悪役令嬢は自分を貶めた者共に復讐を誓う。悪役令嬢の無罪を信じる隣国の王子の協力の元、様々な妨害にも屈せずついに陥れ入れた者共にざまぁするというものだ。


 自分で言うのもなんだが、スカッとする話だと思う。タイトルは「復讐するは私に有り」だ。どこかで聞いたことがあるような気がする? き、気のせいだ...


 半年掛けて脚本を完成させた。もちろん、今まで脚本なんか書いたことは無い。だから試行錯誤を繰り返しながら何とか形にしていった。参考にしたのはオペラの脚本というか台本だ。登場人物の台詞の部分にト書きで、その時の心情などを綴っていく。台本のような脚本のような、そんな感じに仕上がったと思う。


 監督として他の人に自分の作り上げたいイメージを正確に伝えるには、絵コンテを書く必要がある。だが私は壊滅的に絵がヘタだ。だから絵の変わりに写真を張り付けて作ることにした。脚本を書きながら少しずつ仕上げていった。


 ロケ地の選定には苦労した。我が公爵家はお城のようにデカいので、悪役令嬢が断罪される場面はここで良いとして、問題は追放された街の底辺部だった。最初は街の貧民街で撮影しようと思ったが、治安が良くないという理由で却下された。


 だったら自分達で造ってしまえということで、公爵家の敷地内にセットを造ることにした。広大な敷地があるので問題なく造れる。

 

 並行して役者のオーディションを行った。王都で一番人気の劇団の看板役者...ではなく、まだ出番の無い若手を中心に募集した。私が新人監督で尚且つまだ子供ということで、舐められないような人選にした。


 全ての準備が調うまで一年掛かった。その間に私は12歳になっていた。


 明日、いよいよクランクインするという前日の夜、私は父親に一番のおねだりをした。


 映画館を造って欲しいと。

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