第11話 発明王

 私は車輪と車軸の間を覗いて見た。


 うん、間違いない。サスペンションが無いからすぐ傷むんだ。ここにバネ状のモノをイメージして...


 あっさり出来た。


「お、お嬢様。こ、これは!?」


「あ~...なんて言ったらいいのかしらね...緩衝材? クッションみたいなモノ? まぁとにかく衝撃を吸収するモノだって思って頂戴。これで走らせてみて? あぁ、もちろん石畳の上をね」


「は、はぁ...」


 御者は半信半疑といった体だった。かく言う私も正直あまり自信が無い。なにせ前世では車どころか自転車ですらほとんど乗ってなかったからだ。知識として知っているだけで構造なんか知る由もない。だから実際に走って貰ってどうか。上手くいくといいんだけど...


 しばらくして御者が戻って来た。興奮した様子で、


「凄いですよ、お嬢様! 今までと揺れが全く違います! これなら傷みも減るでしょう。ありがとうございます!」


「そう、良かったわ」


 上手くいって良かった! 私は内心ホッとしていた。しかし人間とは欲が出るモノで、


「ねぇ、この車輪もかなりガタが来てるんじゃない?」


 木製の車輪はあちこち削れたり罅が走っていたりしている。


「えぇ、まぁ消耗品ですからねぇ。交換するのは骨が折れるけど仕方無いですよね」


「長持ちすれば交換する手間が省けるのよね...」


 そこで私がイメージしたのはそう、ゴムタイヤだ。しかもオフロード仕様のゴッツイ奴。車輪に沿うようにゴムを貼るような感じで...


 これまたあっさり出来た。


「お嬢様、これは?」


「長持ちする車輪よ。これも衝撃を吸収するはずだから、更に揺れが少なくなると思う。走らせてみて?」


「分かりました!」


 今度は嬉々として御者が出て行った。しばらくして戻って来るなり、


「凄いですよ、お嬢様! 仰る通り更に揺れが少なくなりました! これはもう革命ですよ!」


「そ、そう、良かったわ」


 やたらとテンションの上がった御者に若干引いた。すると、


「え、エカテリーナ。こ、これは!?」


 騒ぎを聞きつけたのか、父親がやって来ていた。


「え~と、これはですね...」


 一から説明すると「凄い!」を連発し、しまいには「発明王だ!」と騒ぎ出した。私の肩書きがまた増えていた。


 そして早速売り出すという流れになって、また人の名前を使いそうになるから先回りして「バネ」と「ゴム」と名付けておいた。父親は不満そうだったが、こればかりは譲れない。


 そしてこれらが我が公爵家に更なる莫大な富を齎すことになるのだった。

 

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