第10話 新しい可能性

 王太子とのお茶会があった日から半年が経過した。


 あれ以降、王太子からのお誘いは無く、私は平穏な日々を過ごしている。ついこの間、誕生日を迎えて私は11歳になった。公爵家の総力を挙げて大々的にパーティーを開くと息巻いていた父親を必死で止めて、内々だけの質素なものにして貰った。これ以上悪目立ちしたくないからね。


 ちなみにヒロインちゃんは王太子の侍女をクビになったそうで、今は男爵家の領地に引っ込んで大人しくしているらしいと風の噂で聞いた。王太子もちゃんと筋は通したみたいで少し安心した。


 ただ、恐らくだが学園に入学する歳、15歳になると領地から戻って来ると思う。ヒロインが不在のままでストーリーが進行するとはとても思えないからだ。


 そう、ストーリー。未だに11本目のプロットは思い出せない。前世からの繰り越しである10本の連載が、全て新規展開に移ったので忙しくてそれどころじゃないというのもあるが、思い出せない理由はきっとそれだけじゃない。


 もう思い出さなくて良いのではないか?


 最近、そう思うようになってきた。学園に入学すれば、同い年である王太子やヒロイン、取り巻き達と絡むことになるだろう。そこからストーリーが始まるのだろう。それで良いのではないか?


 そもそも何が起こるか分からないのが人生だ。何も知らないのが当たり前なのだ。それをまるで神の目の如く全て把握しているとしたら? それって楽しいか? 面白い人生だったと言えるか? 答えは否だろう。


 そんなカンニングみたいな真似して良い訳ない。スタートラインに立つなら皆と同じ位置に着く。ズルはしたくない。だから無理に思い出そうとするのは止めようと思う。自然に思い出してしまったらそれはそれということで。そういうスタンスで行こうと思う。


 それに最近、前世であんなに必死になって書いていた小説への情熱が、段々と冷めて来ているのを感じるようになった。引きこもり体質なのは相変わらずだが、小説を書く時間は徐々に減って来ている。


 その分、前世にはなかった魔法に傾倒するようになった。きっかけは例のアスファルト擬き、通称『イアン材』だろう。あの発明というか発見が、私の中の新たな可能性を見出だしてくれた。


 前世の知識と経験をイメージとして魔法の形に再現出来る。それはどんなに素敵なことだろう。無限の可能性を秘めているのではないだろうか? そう思うと居ても立ってもいられず、今日もこうして屋敷の中を彷徨いている。


 何か新しいネタはないだろうか? 閃きは降りて来ないだろうか? 探しながら歩いていると、玄関の方から何やら騒がしい音がした。近くに行ってみる。すると馬車止めの所で御者が車輪の辺りを覗き込んでいるのが見えた。


「どうかしたの?」


「あぁ、お嬢様。いえね、また車軸がイカれちまったんですよ。このお屋敷の中みたいに全ての地面が『イアン材』ならいいんですが、外は石畳でしょ? どうしても負担が掛かっちまうんですよ」


 その時、私に天啓が閃いた。


 

 

 

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