第9話 王太子とのお茶会

 王太子の婚約者候補に断りを入れた翌日の朝早く、当の王太子本人から私的なお茶会へのお誘いが来た。


 これはきっと事情聴取ってことなんだろうなぁ...直接本人の口から聞きたいと...あぁ、面倒だなぁ...断りたいけど無理なんだろうなぁ...


 父親に相談したくても朝から王宮に行って不在だし、お茶会は今日の午後だし困ったなぁ...


「仕方無い。行くしかないか...マリア、支度を手伝って」


「分かりました! 目一杯可愛く仕上げますね!」


「ううん、その逆。目一杯地味に仕上げて」


「へっ? それでいいんですか?」


「いいの、お願いね」


 可愛くする意味無いからね。気に入られたい訳じゃないし。寧ろ嫌われたいし。私は全くイケてないドレスとノーメイクで王宮に向かった。



◇◇◇



 本当に私的なお茶会らしく、案内されたのは例のガゼボだった。待っていたのも王太子一人だ。


「やぁ、エカテリーナ嬢。わざわざ済まないね」


「ご機嫌麗しゅう、王太子殿下」


「そんな固くならないで。リラックスしてよ」


 いや、早く帰りたいだけなんだが...

 

 そこへヒロインちゃんことレイラ嬢がお茶を入れに来た。またもや私を鬼のような顔で睨み付けてくる。だからなんで!? 私邪魔しないよ!? ちゃんと断っているんだよ!? 今日だって来たくなんかなかったんだよ!?


「っ!?」


 レイラ嬢が私のカップにお茶を注いだ時、とても嫌な笑みを浮かべた。王太子は気付いてない。これは...


「さぁ、どうぞ飲んで。レイラの入れてくれたお茶は格別なんだよ」


 王太子は普通に飲んでる。異常は無いようだ。とすると私のカップに何か仕込んだか。後ろに下がったレイラ嬢をチラッと見る。まだあの嫌らしい笑みを浮かべたままだ。これは間違いないな。飲む訳にはいかない。


「それで今日はどのようなご用件でしょうか?」


 私はカップに口も付けずに尋ねる。


「えっ? あ、あぁ、それは...君が僕の婚約者候補を辞退するって話を聞いて、その理由を直接君の口から聞きたいと思ってね」


「そうですか...理由をお話ししても良いですが、その前にお人払いを」


「えっ!?」


「お人払いをして下さるまで話せません」


「...分かった」


 王太子が指示すると、他の侍女や護衛達が下がる。レイラ嬢は渋々と従ってる感じだ。そりゃ目の前で私がお茶を飲むところをさぞ見たかったことでしょうね。応える義理も義務もないが。


「下がらせたよ。これでいい?」


「ありがとうございます。では次に毒見役の方をお呼び下さい」


「毒見役!? だがこのお茶は既に毒見済みで...」


「お願いします」


 私は重ねて言う。ここは譲れない。たとえ不敬になろうとも。


「...良いだろう」

 

 毒見役の男性はすぐ来てくれた。そして私のカップに入ったお茶を一口含んですぐに吐き出した。


「これは...エカテリーナ嬢、このお茶を飲んではなりません...」


「ま、まさか毒が!?」


「いえ、毒ではなく強力な下剤が含まれております。即効性で吐き気を催す成分も含まれておりますので、飲んだら大変なことになったでしょう...」


 上と下からか。そりゃ確かに大変だわ。


「だ、だが確かにこのお茶は毒見済みだったはずだろう!? 現に僕は飲んでも何ともない!」


「王太子殿下、私のカップに仕込まれていたんですよ」


「カップに!? そういうことか...」


「私のカップに仕込めるのはどなたですか?」


「...レイラだ...」


「でしょうね。私のことを見て、とても嫌らしい笑みを浮かべていましたから」


「レイラが...」


「王太子殿下、これが答えです。こうして殿下と二人きりでお茶を飲むというだけで、このような嫌がらせを受けるのです。これが毒だったら私は生きていないでしょう。婚約者候補を辞退した理由をご理解頂けましたか?」


「あぁ、良く分かった...本当に申し訳なかった...」


「レイラ嬢は侍女から外すことをお勧めします。他の婚約者候補の方のためにも」


「分かった...忠告感謝する...」


 後は王太子に任せる。ここで情に絆され判断を誤るようなら、この人はそれまでということだ。


 私は王宮を後にした。


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