第6話 王太子シリウス

 私は一人になれる場所を探して庭園を彷徨った。


 すると奥の方にガゼボを見付けたので、そこに向かった。そして懐からメモ帳とペンを取り出した。さすがは王宮というだけあって見事な庭園なので、小説の背景描写の参考にしようと思ったのだ。


 ペンを走らせながら、先程会った王太子の姿を思い出す。間違いなく彼がこの物語の主人公だろう。それだけのオーラを感じた。もう既に運命の出会いを果たしているのだろうか? ヒロインは誰なのだろうか? 主人公とヒロインが出会うパターンで、私が小説に良く使っていたのは大まかに分けて3つ。


『パターン1』

 学園で初めて出会うパターン。入学式に遅れてやって来たヒロインが「遅刻遅刻~!」とパンを咥えながら走って来て主人公とぶつかる王道パターン。


『パターン2』

 街にお忍びで出掛けた主人公が、破落戸に絡まれているヒロインを助け、恋に落ちるという、これまた王道のパターン。


『パターン3』

 幼い頃に出会って、その後生き別れになるパターン。大体が「大きくなったら結婚しよう」とか子供心に約束するというのが多い。

 

 パターン1とパターン2の場合だと、当然ながらまだ出会っていない。パターン3だけが既に出会っているが、再会を果たすのは学園に入ってからだ。


 要するに、私が今まで書いた小説なら、現時点ではまだ主人公とヒロインとの接点はほとんど無いはずだ。


 11番目の物語以外は。


 思い出せないのが何とも擬しい。恐らくだが、3つのパターンのどれでもないのだろう。根拠は無いが何となくそう感じる。私が悶々としていると、


「邪魔していいかな?」


「お、王太子殿下!? な、何故こんな場所に!?」


 いきなりキラキラオーラの王子様が現れた。いやいや、なんで? 意味分からん!


「いやぁ、人が多過ぎて疲れちゃってね。ちょっと休憩しようかなと」


「さ、左様で...」


 主役が席を外していいのだろうか?


「君は? それ、何書いてるの?」


「あぁ、これは小説の...」

 

 参考にしようと思って...と言い掛けて慌てて止めた。私が小説を書いていることは、誰にも知られる訳にはいかない。


「...真似事でもしてみようと思いまして...」


「へぇ、君も小説に興味あるんだね。僕もなんだよ。好きな作家はいる?」


「え、え~と...」


 困った...ここはなんて言えば正解なんだろう...そもそもこの世界の小説はほとんど読んでない...作家の名前が出て来ない...私が言い淀んでいると、


「当ててみようか?『カチューシャ』じゃない?」


 一瞬、正体がバレたのかと思ってビックリした。そんなはずないのに。


「え、えぇ、まぁ...」


「やっぱり!? 今大人気だもんねぇ! 僕も大ファンなんだ! どの本も凄く面白くて一遍に読んじゃったよ! どんな人が書いてるんだろう? 一度会ってみたいな~!」


 いや、本人目の前に居るんですが...とは言えない。やたらテンション上がった王子に若干引いていると、


「シリウス様! こんな所に居たんですね! 皆さんお探ししてますよ! すぐ会場に戻って下さい!」


 メイド服姿の少女が息を切らせてやって来た。その少女はショッキングピンクの髪色だった。


 もしかして...この娘がヒロイン!?

 

 


 

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