第5話 園遊会
連載中の何本かに写本が追い付いた
そうなると新しい展開を書くことになる訳で、ただ写本している時とは違い必然的に集中することになる訳で、
「...っ嬢様、お嬢様! そろそろお昼ですよ! エカテリーナお嬢様!」
「えっ?、あぁ、ありがとう、マリア」
そう、前世の悪いクセが顔を覗かせてしまう。寝食を忘れて小説を書くことにのめり込んだ結果、命を落としたというのに。今世ではそうならないように、キチンと三食取って休む時は休むように心掛けているつもりだが、今のように忘れそうになる時がある。
そんな時はマリアにしっかりと手綱を握ってくれるようにお願いしてある。最初の日、怒鳴りつけてしまってからしばらくはギクシャクしていたが、遠慮せずおもいっきりやって良いと言ってからは関係が改善した。今ではすっかり気心の知れた仲だ。
「園遊会、いよいよ明日ですね! お嬢様をピカピカに磨き上げるのが今から楽しみです!」
昼食の席でマリアがそんなことを言い出した。私は正直言うと余り気乗りしない。なぜなら、まだ例のプロットを何も思い出せていないからだ。ただ、頭の中でどんな物語を考えていたにせよ、その起点となるのは明日で間違いないだろう。
登場人物との最初の出会いがあるのは確実だと思う。だからこそ、どんな行動を取れば正解なのか分からないのが辛い。もし何らかの失態を演じてしまったら、取り返しがつかないかもと思うと少し怖い。
そして何より...引きニートだった私が、綺羅びやかな王宮で大勢の人に囲まれるという状況が一番怖い。転生して少しはマシになったかと思うが、まだそんな華やかな舞台は敷居が高い。明日は目立たない壁の花に徹しよう。そう心に決めた。
◇◇◇
園遊会当日、朝からやたらテンションの高いマリアに、文字通り全身をピカピカに磨き上げられ、既に私のライフゲージは底をついてる。ぐったりしながら鏡を見ると、知らない子が映ってた。
誰だこれ?
「とてもお綺麗です、エカテリーナお嬢様!」
私か!? うわぁ、改めて見るとホントに美少女なんだな...淡いピンクのドレスは赤い髪に良く映える。薄化粧を施した顔はとても10歳と思えない程大人びてて、妖艶な印象を与える。
私か男だったら間違いなく惚れてるよこれ。目立たないようにって無理じゃないか? 私が頭を抱えていると、
「おぉっ! 私の天使! なんと麗しい! 美の化身のようだよ!」
こちらもやたらテンションの高い父親にエスコートされて、心の整理がつかないまま馬車に乗せられた。
◇◇◇
初めて見る王宮は、もっと荘厳な感じをイメージしてたんだけど違った。どちらかと言ったらメルヘンチックな感じで前世のネズミの国を彷彿させた。
園遊会はガーデンパーティー形式で行うらしい。私達は中庭に案内された。しばらくすると場が騒然となって本日の主役である我がエストリア王国の王太子、シリウス殿下が現れた。
初めて見た王太子は、輝くような金髪に碧い瞳。彫像のような整った顔立。柔やかに笑顔を振り撒くその様は、まさに正統派のTHE王子様という印象だった。
父親と共に挨拶へ向かった際、間近で見た王子様からはキラキラオーラが溢れていて目が痛かった。父親が挨拶回りに向かったので、私は当初の目的通り壁の花に...って、屋外だから壁が無い!
今頃気付いた私は相当アホだと思う。
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