第3話 地味に生きよう

 衝撃的な事実に私はしばし呆然としていた。


「リーナ! 大丈夫か? どうしたんだい?」


「リーナ! まぁ可哀想に! 顔が真っ青じゃない! 何があったの?」


 誰だコイツら? あとリーナって誰だ? あ、私か? エカテリーナだからリーナ?


「マリアからリーナの様子が変だと聞いてね。すぐ駆け付けたんだよ」 


「大丈夫? 何か怖い目にでも合った?」


 また知らない名前が...だからマリアって誰よ? あ~! この人達の後ろで震えているさっきのメイドのことか! そのメイドが慌てて呼んで駆け付けて来たってことは、この人達は私の両親か!


 改めて二人を良く見てみる。父親の方は金髪に碧い瞳の凄いイケメンだ。母親の方は赤い髪に碧い瞳のこちらもエラいペッピンさんだ。そして二人共、こんな大きな娘が居るとは思えない程若い。まだ二十代なんじゃないか?


 人間観察が終わり、さて何か答えなくてはと思って困った。なにせこちとらコミュ障の上に引きニートだ。自慢じゃないが人と会話するのが大の苦手だ。だからここは私じゃなくエカテリーナになり切ってなんとか乗り切るしかない。


 エカテリーナならこんな時なんて言うか? どう行動するのが正しいか? 答えは...


「ごめんなさい、お父様、お母様、私怖い夢を見てしまって...」


 夢のせいにするだった。幸い上手く誤魔化せたようで「もう大丈夫」「怖かったね」と二人に抱き締められながら慰められた。私はホッと息を吐いた。



◇◇◇



 あれから数日経った。私は不自然に思われないよう、それとなくこの世界の情報を集めていた。まず我が家はスミルノフ家といって公爵家なんだそうだ。悪役令嬢の立ち位置として申し分ない高スペックと言える。


 私は今年ちょうど10歳になったらしい。大体見た目通りの年齢だと思う。ちなみにまだ婚約者は居ないそうな。ただ、約二ヶ月後に開かれる予定の王家主宰の園遊会には参加するよう言われた。


 その席で私と同い年の王太子殿下が婚約者と側近の候補を選ぶらしい。選ばれて来いってところなんだろうけど、私としてはご免蒙りたい。この世界における自分の役割がハッキリするまでは、ひたすら地味に目立たず生きようと思ったからだ。そこで私はまず、


 小説を書くことにした。


 何を? と思われるかも知れないが、理由は二つある。まず一つ目が、小説を書いている内にプロットを思い出すかも知れないということ。プロットを思い出せれば、私の立ち位置も自ずと定まる訳で、本当に悪役令嬢なのかどうかもハッキリするだろう。


 二つ目は前世でやり残したことにケリを付けること。未完のままの10本の連載を完結したいと思っている。とはいえ、途中までは記憶に残っている内容をただ紙に写すだけ。写本と同じだ。


 なので、机の上に原稿用紙5枚を横に並べ、今日は1~5までの話を少しずつ書いて、明日は6~10までの話を少しずつ書く、といった芸当が可能だった。


 忙しい淑女教育、マナーやダンスレッスンの合間を縫って、毎日少しずつ書いていった。前世の教訓を思い出し決して無理をしないペースで進めていった。やがて1冊の本が出せる分量になった。ということは10冊の本が書き上がったということで、それを纏めて出版社に持ち込んだ。その結果、


 私は若干10歳にして大ベストセラー作家になっていた...


 あれ? 地味に生きるはずがどうしてこうなった?

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