第18話 おめでた

 実家からの連絡にアイシャは飛び上がらんばかりに喜んだ。


「やったわよ、トリシャ! ようやく撒いた種が実を結んだわ!」


「お姉様ったら...撒いたのはお父様でしょうに。それにまだ男か女かも分からないんですのよ?」


「いいえ、男よ! 間違い無いわ!」


「どうしてそう言い切れるんですの?」


「勘よ!」


「はぁぁ~...」


 トリシャは深いため息を吐きながら言った。


「とにかくまだ安定期に入った訳でもありませんし、お母様は高齢出産になりますから余談を許しません。あまり喜び過ぎるのも大概になさいませ」


「なによアンタ、イヤに冷静でいるじゃないの?」


 アイシャは口を尖らせながら言う。


「急いては事を仕損じると言いますでしょう? 程々に期待しておくぐらいで丁度良いんですのよ」


「はぁぁ...アンタがこんなに冷めているとは思わなかったわ...」


 アイシャもため息を吐いた。


「それよりも次どうするか、お姉様に何か考えはございますの?」


「えぇまぁ、ちょっと消極的な手だけど、相手を焦らすって意味では効果を期待出来るかも」


「具体的には?」


「せっかく相手の手駒を抑えているんだから、有効活用しない手は無いでしょう?」


 そう言ってアイシャは怪しく微笑んだ。



◇◇◇



 その日、伯爵邸に潜り込ませているメイドから連絡が入った。近々開かれる予定の、さる公爵家の夜会にアイシャとトリシャの二人が新しい婚約者を伴って出席するというものだ。


「これは良い機会だな」


「そうですね。撒いた種がどこまで実を結んでいるか、この目で確認出来ますね」


「そういうことだ。早速公爵家に我々が出席する旨、使いを出せ」


「分かりました」


 トリスタンとランドルフの二人は、アイシャとトリシャ二人の手の平の上で踊らされていることにまだ気付いていない。キスリングの領地に潜り込ませた庭師からは、ベルナンドとジルベルトの二人が、アミとユミの二人に徐々に篭絡されているとの報告を受けているからだ。


 仲睦まじい様子で何度も寄り添って歩いているところを目撃されている。実際には目撃させられているのだが、そんなことは知る由もない。


 アイシャとトリシャ、ベルナンドとジルベルト、この二組の仲がどれだけ拗れているか、それを自分の目で確かめられるという愉悦に溺れる二人の王子の姿がそこにあった。



◇◇◇



「お母様! おめでとうございます!」


「お父様! やりましたね!」


「ありがとう、二人とも」


「これでもうすっぽん鍋は食べなくていいよね?」


 アイシャとトリシャの二人は、ベルナンドとジルベルトを伴ってキスリング邸に戻っていた。


「それで夜会の件ですが」


「あぁ、お前達の読み通り、王子達も出席するそうだよ」


「思った通りですわね」


「大丈夫かい? 僕はお母様の体のことがあるから出席出来ないけど」


「えぇ、お父様。問題ありませんわ。目にもの見せてやりますから」


「程々にね...」

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