第13話 二人の刺客

 トリスタンは早速詳細な説明を求めた。


「で? どういう女達なんだ?」


「はい、名前をアミちゃん、ユミちゃんって言いまして、とっても美人でスタイル抜群の二人です」


 なんでちゃん付け? しかもなんか源氏名のような...トリスタンは嫌な予感がした。


「...経歴は?」


「はい、二人とも、とあるお店に務めているのですが、それぞれそのお店のNo.1とNo.2です」


 ますます嫌な予感がヒシヒシと...


「...店の名前は?」


「はい『シャングリ・ラ』と言いまして、王都でもNo.1の」


「おもいっきりキャバクラじゃねぇかぁぁぁっっっ!!!」


 ついにトリスタンは爆発した。


「お、お前ぇ! なに考えてんだぁ! よりによってキャバクラなんてぇ! ハッ! まさかお前! 通ってんじゃないだろな!?」


「とんでもない! 市場調査の一環として一回行っただけです!」


「行ってんじゃねぇかぁっ! どんな市場調査だよ!? キャバクラでなんの調査してんだよっ!?」


「それは...禁則事項になります」


「言えねぇようなことしてんのかよ!? なにやってんだお前はぁ!?」


「そんなことよりこの二人ですが」


「なにもなかったようにサラリと流すんじゃねぇよ!」


「貴族がお忍びで訪れることもあり、礼儀作法もそれなりに仕込まれていますし、何より話題が豊富です。政治・経済から他国の情勢、王宮における貴族の勢力図から市井の最新の流行に至るまで、とにかく多岐に渡ります。そして何と言ってもおねだりが上手です。No.1、No.2と呼ばれるのは伊達じゃありません。ドレスや宝石、アクセサリーから別荘に至るまで、様々な男に貢がせています。僕も貢ぎました。このような手練手管を持ってすれば、田舎者の男二人などイチコロです。こんな優良物件はそうそうありませんよ! ど~ですか、奥さん!」


 熱く語る弟を冷めた目で眺めながら、トリスタンは考えた。確かになまじ貴族の娘を使うよりも、失敗した時のリスクは低いかも知れない。問題はどうやってキャバ嬢を近付かせるかだが、そこは貴族の娘と偽って潜り込ませれば良い。もしバレてもキャバ嬢がウソを付いたで押し通せば良い。


 冷静になってみると、案外良い案なのかも知れないと思えてきた。しかし弟よ、たった一回で貢ぐってどんだけチョロイんだ!? さては一回だけじゃないな!? 通ってやがるな!? それと誰が奥さんだ!


「...色々と言いたいことはあるが、まぁ良いだろう。進めてみよう」


「ありがとうございます」  


「それとキスリングの領主邸への忍び込みは上手くいったか?」


「それが...ガードが固くて庭師を潜り込ませるのが精一杯でした。それも通いの」


「そうか...まぁ今の所はそれで良しとするか。王都の屋敷に潜り込ませたもう一人は無事だったしな」


「そうですね。ではまず、トーレス家の二人に接近する機会を伺います」


「頼む。キスリングの領地で夜会とか開く情報が入ればいいんだがな」


 この二人はまだ知らない。キスリング家に潜り込ませた侍女は密偵だと既にバレていること。そして領地に潜り込ませた庭師も既に疑われていることを。




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