第11話 それぞれの想い

 一方その頃、キスリング家の領地にある領主邸に、ベルナンドとジルベルト宛の荷物が届いていた。


 家令のハンスは差出人の名前が無いその荷物を訝し気に眺めた後、二人には知らせず中を確かめることにした。


「ほうほう、これはこれは」


 それはトリスタンとランドルフが手配した枕絵本だった。


「姉妹丼、親娘丼、寝トラレ、不倫、BL、おぉっ! 熟女物まで! 良くここまで各種取り揃えたもんじゃの~! こんな爺でも年甲斐もなく興奮してくるわい! あの若造どもには10年早いな! どれどれ...おふう♪ これは中々♪ 漲ってくるのぉ~♪ 若返るようじゃぁ~♪」


 こうしてハンスが防波堤になってくれたお陰で、二人の王子が放った毒牙は、若い二人に届くことは無かった。その代わり、一人の老人が新しい快楽に目覚めてしまった訳だが。



◇◇◇



 老人が快楽に溺れている頃、ベルナンドとジルベルトは真剣に悩んでいた。自分達は彼女達に本気で惚れ込んでいるが、彼女達はそうじゃない。それは良く分かっている。


 単に自分達は彼女達にとって都合の良かった相手なんだと。ストーカーのようにしつこい王子達から逃げるための便利な道具に過ぎないのだと。


 そう、勘違いしてはいけない。自惚れてもいけない。自分達は王子という名の嵐が過ぎ去るのを待つまでの避難小屋であって、それ以上でもそれ以下でもない存在なのだと。


 常にそれを自分に言い聞かせておかないと。万が一にでも間違いを犯す訳にはいかないのだから。寄親の家の娘を傷物になんかしたら、勘当どころじゃ済まないだろう。

 

 自分達の想いを押し殺してただひたすら彼女達に尽くす。言葉にすると簡単だが美しく成長した彼女達を前にすると決意が揺らぎそうになる。


 気合いを入れ直すべくベルナンドは、


「ちょっと走ってくる」


「兄さん、僕も付き合うよ」


 ジルベルトも続いた。


 二人の苦悩は始まったばかりである。



◇◇◇



 若者達が悶々としている頃、アイシャとトリシャは街の洋品店に居た。


「お姉様、これなんてどうです?」


「こ、これはいくらなんでも布が少な過ぎない?」


「あら、悩殺しようとするならこれくらい着ないと」


「そ、それはそうだけども...」


 二人は方針を変更していた。領地でスローライフを送る。この目標は変わってないが、そこに伴侶が居てもいいのではないかと。もう一度結婚を夢見てもいいのではないかと。


 あの二人なら理想的だ。領地でのスローライフに協力してくれるだろう。なので今は既成事実まっしぐらに路線をシフトした。


 若者達はますます頭を悩ませることになる。

 

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