第10話 父として
キスリング伯爵は客室で二人の王子と対峙していた。
「王子様方、先触れも無しに当家へお越しなさるなど何事でございましょうか?」
「き、キスリング伯爵!? この時間は王宮に居るはずでは!?」
まさか伯爵本人が屋敷に居るとは思わず、二人は動揺した。
「それがお恥ずかしいことながら...当家の情報を外に漏らしていた者がおりまして...その者を私自ら処分するために屋敷に戻った次第です」
そう言って伯爵は二人の王子を眼光鋭く睨み付けた。それは暗に「お前らが仕向けたんだろ?」と言ってるようなものだ。王子達の顔が引き攣った。
「そ、そうか...それは大変だったな...」
「それでご用件は?」
二人は沈黙した。アイシャとトリシャが屋敷に戻っていると聞いて急ぎ駆け付けたのだが、ここで「二人を出せ」と言おうもんなら「何故知っているのか?」と返されるだろう。そうなれば密偵を潜ませたのを自ら認めるようなもので...
「コホン...いやなに、この間アイシャとトリシャに会った時にだな、このまま次の婚約者が決まらなかったら、二人して修道院に入ると聞かされてな。それは困ると言いに来たんだ。伯爵からもハッキリと言って欲しい。娘が二人共修道院に入るのは嫌だろう?」
「ほう、それは初耳ですが、娘達がそう望むのであれば致し方ないでしょうな。それで何故王子達方がお困りになるのですかな?」
「言わなくても分かっているだろう。アイシャとトリシャを我々の妃に迎えたいのだ。修道院に入られては困る」
「有難いお話ですが、二人共新しい婚約が決まりました。丁重にお困り申し上げます」
「なっ!? 了承したと言うのか!? 寄子の家のしかも次男と三男だぞ!?」
「おや? 良くご存知で。情報が早いですな」
伯爵はわざと訝し気な目を向けた。
「それは...直接本人に聞いたからな...」
トリスタンが目を逸らしながら言う。
「わざわざ我が領地まで!? そこまで慕って頂くとは。娘達は幸せ者ですな」
伯爵は小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
「そう思うなら我々との婚約を認めるべきだろう...」
ランドルフは怒りを押し殺しながら言った。
「申し訳ありませんが、私としましても娘達の気持ちを蔑ろにしたくはありませんので。どうぞお引き取り下さい」
そう言って伯爵はさっさと席を立ってしまった。
「...また来る...」
苦虫を噛み潰しながら、それだけ言って二人は伯爵邸を後にした。
早急に次の作戦を立てねばならない。
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