第3話 三人目

 セシルは混乱の極みにあった。自分の両親、つまり国王夫妻の居ない隙に、小言ばかりで鬱陶しく可愛げの無いリアナとの婚約を断罪によって破棄し、アニエスとのバラ色の生活を送るはずの計画がどうしてこうなった?


 完璧だった計画のどこに間違いがあった? 何が悪かった? 何故自分達が逆に断罪されている? 答えは見付からず、焦りばかりが募る。そんな時だった。


「リアナ嬢、一つよろしいでしょうか?」


 三人目のそして最後の側近である魔道騎士団長子息の子爵子息が声を上げた。


「あなたはマトモな話をしてくれるんでしょうね?」


 もうリアナは取り繕うのを止めた。


「もちろんです」


 自信有り気に言い放つ。この状況で前に出てくるだけの度胸と、そして根拠はあるらしい。チラと列席している魔道騎士団長の顔を伺うと、彼は無表情で己の息子を眺めていた。


「どうぞご勝手に」


「ありがとうございます。先日、アニエスが暴漢に襲われました。幸い、僕がすぐに駆け付けて事なきを得たのですが、逮捕された破落戸が言うには、誰かに雇われてアニエスを襲ったそうです」


 そこで一旦言葉を切って、自信満々に続けた。


「その誰かとはリアナ嬢、あなたですね? 破落戸が白状しましたよ。証拠も証人もちゃんと揃ってます。この件をどう反論されますか?」


 ここで初めてセシル陣営が優位に立った。静まり返っていた会場内からも「まさかリアナ様が」「そんな恐ろしいこと」などと言った声が聞こえてきた。セシルもホッとした表情を浮かべている。これで逆転できると思っていた。


「はぁ~...」


 だがリアナは反論せず、特大のため息を吐くだけだった。


「どうしました? さすがにこれは言い逃れできませんか?」


 子爵子息は相変わらず自信たっぷりである。


「私から言うことは一つだけです。あなた、その後を調べました?」


「えっ? その後とは?」


「はぁ...もういいです...魔道騎士団長、私、疲れたんで後は任せていいですか?」


「畏まりました」


 そう言って魔道騎士団長は前に出た。


「会場にお越しの皆さんはご存知ないでしょうから、一から説明致します。通常、犯罪者が逮捕された場合の取り調べは騎士団が行います。そこで自白を得られれば、そのまま起訴に至る訳ですが、今回のように事件の背後に黒幕がいる、しかもそれが高位貴族の可能性がある場合、確実性を求めて我々魔道騎士団が出向きます。そこで犯人に自白魔法を掛けて真偽の確認を行います。万が一、高位貴族の方に有らぬ疑いを掛けたりしたら、とんでもないことになりますから当然の処置です」


 そこで魔道騎士団長は一旦言葉を切った。


「自白魔法...」


 知らなかったのだろう。子爵子息がポツリと呟いた。


「自白魔法で得られた自白はウソがつけません。つまりこの自白こそが真実です。そして犯人はアニエス嬢、あなたに頼まれてやったと自白しましたよ。要するにあなたの自作自演ということですね」


 会場が騒然となる中、アニエスが初めて口を開いた。


「ウソよ! でたらめよ!」


「ウソでもでたらめでもありません。自白魔法でウソはつけないと先程申した通りです」


 魔道騎士団長は淡々と述べた。


「ご苦労様でした。息子さんのことはお任せします。教育が足りなかったようですね?」


「お恥ずかしい限りです。では失礼します」


 子爵子息は魔道騎士団長に連れて行かれた。


「もう終わりでいいですよね?」


 リアナの問いかけにセシルは何も答えられなかった。

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