第5話 伝説の英雄
まあ形容できない朝のあれやこれやの出来事のあと、俺達は本来の目的であるパーティーメンバー募集をすることにした。
……なんか落ち着かない。なんだろう、俺達の長きにわたる冒険に仲間として加わることになるからだろうか。それとも、これは嫌な予感…?
「リル、俺なんか落ち着かないからさ、近くのところでできるような軽いクエスト受けようぜ…」
「私も同感です、だって今の状態のリアム様、とても公共の場で見せたくない顔をしてますから」
あの、もう少しビブラ…オブラートに包んで言ってもらえませんかねぇえぇ!でも、リルもすっごい恥ずかしそうな顔してますよ、とは言えなかった。
☆☆☆
「あの、このちびドラゴン退治っていうクエストを受けたいんですけど…」
リルは俺の背中にぴったりだ。いろいろと背中に当たって気にならないこともないが…いずれ、1人でどうにかなるように成長してもらわないとリルのためにならない。
「分かりました、このカードをお持ちください。このカードはクエストを受けそれが達成されると色が変わります。それをここまで持ってきたら報酬をお渡しします。このカードはすべてのクエストで共用なのでなくさないでくださいね」
あっ、と思ったが時すでに遅し。つまり俺は将来的にどこかでこのカードをなくすことになるのだろう。せめて…
「大事に持っておこう」
現実の伴わない決意をするのであった。
☆☆☆
「ふう、そろそろ依頼の場所につくんじゃないか…?」
「はい、ここら辺にいるはずですね…ですが、これ…」
「「いかにも強敵が出そうな洞窟」」「だ!」「ですね!」
俺とリルの意見が合うなんて珍しい。でもそれも仕方ない。俺達は今、いかにも強敵がいそうな、巨大な洞窟の中にいる。鍾乳石とかもあったり、コウモリが羽ばたいたりといかにも洞窟って感じだ。リルはコウモリが羽ばたくたびにビビっていてちょっとかわいかった。言ったら睨まれそうだから言わないけど。
「えっと、目的のモンスターはっと…」
「あ! あれじゃない…ですか…ね…」
背筋が凍り付く。喰われるものとしての気持ちになる。
そう…
目の前には、ちびドラゴンと呼ぶにはとても似つかない、立派なドラゴンがいた。
☆☆☆
「ファイアボール! ファイアアロー! ファイアボム!」
「リアム様、とりあえず逃げることを優先に、勝ち目はありません!」
こうやってリルと窮地に立たされることは何度目だろう、もーなんかどうでもよくなってきてしまった。完全に気の抜けていた俺は、
「リアム様、危ない―!」
リルの声に反応できなかった。
衝撃。体が吹っ飛ばされる。肩、足、腹、頭、地面に打ち付けられるのを感じて、意識が遠くなる。父母とのひと時、別離、友達とはしゃいで回ったこと、リルと笑い合った日々、そして、見張り台で見た景色。くそ、走馬灯が見える。俺はもう死ぬのか。
「リアム様―!」
リルが走ってくる。危ない、こっちに来てはいけない。そういいたかったが、出血がひどくて意識ももうろうとしている。
その時、音が聞こえた。足音だ、しかし力強く、一歩歩くたびに空気が揺れる。
目を開けて、その正体を見たい。だがもう体も言うことを聞かず、うずくまったまま動けない。
声が、聞こえた。静かだが、力のこもった、声で。
「―サンダーブラスト」
光魔法最大火力攻撃、サンダーブラスト。すべてを薙ぎ払う暴力的な爆発、爆風に体を吹っ飛ばされる。もう痛いという感覚もないみたいだ。
「ガァアアアアア!!」
ちび…いやドラゴンには効果が抜群だったようだ。目を開けることすらできないが、圧倒的な力同士がぶつかり合い、地面が揺れるのを感じる。
「リアム様!」
隙を見て、リルがやってきたようだ。リルはもうだいぶ軽くなった俺を抱え上げ、安全な場所へと移動させる。
「ヒール! ヒール! ヒール!」
リルが慣れない回復魔法で傷を癒していく。精度は高くないが、目を開けることができるほどには回復していた。
目を開けると、もう戦闘は終わっていた。圧倒的な力の差。いったい誰が、と思っていると、それはこっちに向かってきた。
「大丈夫かい? 今治すから、じっとしてて」
とてつもない魔力の流れ。体中の傷がみるみる治っていく。
「「すごい…」」
これほどの回復魔法を、詠唱なしで?信じられない。
「あ、あの、あなたは…」
そこまで言って、はっと気づく。きれいな白髪に、赤い目、人間とは思えないようなその髪の色に、見覚えがあった。
「「英雄、カルグーレ―」」
リルと声が重なる。今回、めっちゃタイミング合うな。いつもかみ合ってないのに。
「いかにも、僕がカルグーレ=ヴァリ=レグルスだ。危ないところだったね、ここのちびドラゴンが突然変異で巨大化、狂暴化したとの知らせを受けてね。急いでここまで来た次第だ」
本当に危なかったと思う。あと少し到着が遅れていたら、俺は肉塊に…やべ、震えが止まりません。
でも、俺は同時に違和感も感じていた。カルグーレの登場する昔話は、軽く300年は昔の話だ。それなのに…
「どうして、生きているんだみたいな顔をするね。ちょっと傷つくなあ。実は僕、不老不死で、年取らないんだ」
なんですかそのチートは、うらやましい。伝説の英雄ならそれも普通なのだろうか…?
「…無反応も悲しいなあ」
こんな英雄が目の前に現れて、自分年取らないんだなんて言われて、普通に話すことができる奴なんているだろうか。否、いない。
「まあいいや、今回は君が倒したってことで、このカードを書き換えておいたから。じゃあね」
英雄は、ほんとにチートだった。
「まさか、ご存命だったとは…本当に、嵐のような方でしたね…」
英雄のインパクトが強すぎて、その日俺らはパーティーメンバーの募集を忘れていた。
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今回もお読みくださりありがとうございました!
英雄、強すぎますね。既作に被らないように書くのはとても難しいです。
次回もまたすぐに出せるようにしたいです!次回は新キャラ登場なんでお楽しみに
ちなみにリアムの髪は茶、目は緑。リルの家系は黒髪に青目です。
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