第4話 迷子と誘惑には勝てない
とりあえず都市ホルトに到着した。とりあえず今は夜なので泊まる場所を探さないと…あれ、ギルドにも泊まれるんだ、仲間も募集したいしちょうどいい。うーんと、ギルドの場所は…?
「リルさん、ギルドがどこかわかります…?」
「分かるわけないでしょう、私もこの街は初めてです。とりあえずこの街の人に話を聞きましょう。では聞いてきてください」
「えーと、リルさんが聞けばいいのでは…?」
何も考えずそう聞くと、リルは顔を少し赤くして照れたように言う。
「えーと、その、私…極度の人見知りなんです、ワカッタラハヤクイッテクダサイ」
ほーう。これはいいことを聞いてしまったな。これはいいことを聞いたとばかりに笑っていると、リルが本当に早く行けと言わんばかりに小突いてきた。
「あのー、すみません。冒険者のギルドを探しているのですが、どこにあるか教えていただけませんかね…?」
「ほう、見ない顔だね。冒険者ギルドかい? えーと、この道をまっすぐ行った先に…」
「ありがとうおばさん! 行ってみます!」
俺はおばさんの話を頼りに、リルの腕をつかんで走り出した。
「あの、まだ話は終わってないんじゃが…」
ギルドの場所をまだ伝えきれていなかったおばさんを置いて。
☆☆☆
「あれー? おばさんはこっちって言ってたんだけどな…?」
「でも遠目から見ていましたが、あの方は噓は言ってないみたいでしたよ? リアム様が方向音痴で、聞いた場所と違う場所に来てしまったのでは?」
「そんなことないと思うんだがな…」
「とりあえず辺りを探してみましょう。もしかしたら見落としてるだけかもしれませんしね」
リルの提案通りに周りを探してみるがそれらしい建物は見つからない。時刻ももう夜の9刻である。あと3刻で日付が変わってしまう。早く見つけなければ…
と、突然ぐ~っという音が鳴った。何かと思ってリルを見ると、耳まで赤くしてしまっている。
「あの、お腹がすきました…」
☆☆☆
俺達はそのあと近くにあった店に駆け込み、今はじゃんぽんなる麺をすすっている。うまい。結局ギルドは見つからず、俺達はギルド探しに2刻も使ってしまった。そうだ、なんで俺達は周りの人に1回しか聞かなかったのか。
「大将、ギルドの場所ってどこだか知ってる?」
おっと、いつもは敬語でしゃべってなかったからついタメでしゃべってしまった。まいっか。
「ギルドだあ? ギルドなんか1番目立つとこにあるに決まってんだろ」
あ、やっぱそうか。ソウデスヨネ。おばさんに悪いことしたな…
と、いうことはだ。
「俺達は何にもないとこで2刻も探し回ってたってことかよ…」
「はあ、ほんとにしょうがないですね。私にも探させたんですからじゃんぽんのお代払ってくださいね」
だったらリルさんが聞けばよかったじゃないですか!と声に出そうになるのをぐっと抑えて俺は2人分のお代を出したのであった。
☆☆☆
「ふう、ようやくついた…」
「もう10刻ですからね、やってないかもしれないとは思いましたが…杞憂だったようですね」
もう10刻だというのに、ギルドの外にも声が聞こえるくらいギルドは大盛況だった。とりあえず疲れたので急いで部屋を取りたいところ。
ギルドの中に入ると、一斉に視線が俺達に向かって向けられた。興味の目、訝しむ目、もはや焦点も合ってなさそうな目。一瞬にして汗がドバっと噴き出た。当然、これはどやされるパターンだ、決まっている。
「………」
あれ。あれれれ。もしかしてシカト。全く何もリアクションしてくれないのも悲しいんだが。向こうではもう宴会に戻ってしまったようだ。ちょっと残念。
「えーと、部屋を2部屋、シングルでいいので泊めてもらいんだが…」
ここは冒険者のためのギルドだ。タメくらい許されるであろう。少しでも手練れに見えるようにちょっと声も変えて尋ねると、
「はい、わかりました。少々お待ちください…」
☆☆☆
「やっぱり、こうなるんだろうなあ!」
あるあるの展開である。シングル2部屋と頼んだが、部屋がいっぱいでダブルかツインなら空いてますけど的な展開。ちっちゃなフラグだが、俺には大きすぎる問題だ。
「じゃあ、私先にお風呂に入らせてもらいますね」
こんな状態じゃくつろげるはずもない。王都にあると言われるテレビなるものは生憎この都市にはないようだ。話題もないし、どうしたらいいのだろう。
それはさておき。俺はさっきからある一点に目が行って離すことができない。そう、ベッドである。いかにもふかふかな様子で、まるで虫を誘い込む食虫植物のようだ。
「うっ、あそこで寝たい…でも、リルがいるから…」
「私がいるから、なんですか? 別に一緒に寝ればいいじゃないですか」
リルが嫌がると思ってベッドで寝るのはやめようと思っていたのだが、いつの間にか風呂から出ていたリルがいいと言っているのなら別にいいのだろう。いや待て、本当にいいのか?いや、だめだろ、さすがにリルも俺も年頃だし、こんな状態で寝ても疲れはとれないだろう…いやでも、このベッドには抗えないし…
結局その場で頭がパンクして膝をついた俺はリルにとりあえず風呂に入ってこいと言われたが、結局どっちがいいのだろうか…
迷った結果、俺は本能に任せることにした。ベッドには抗えない。体を包み込むような感覚に、一瞬にして眠りに落とされてしまう。
「リルが寝るまでは…」
そうして俺は眠りに落ちた。
☆☆☆
穏やかに目覚めた。今日はなんかとてもいい夢が見れたような気がする。このベッドは最高だ。何度寝でもできてしまう。
「……?」
寝息が聞こえる。リルのものだろう、きっと疲れてるからもう少し寝かせてあげよう。そう思って目を開けると…
目の前にリルの顔があった。
思わず後ずさる。そして冷や汗がドバっと噴き出る。俺なんか寝ている間にやらかしてないだろうか、大丈夫だろうかととてつもなく恐ろしくなった。
結局その後、穏やかに目覚めたリルに汗がすごいですよ、怖い夢でも見たんですかとなぜかあやされ、俺は何とも腑に落ちない気分になった。まあ何もなくてよかった。
「そして…」
今日は絶対2部屋取ろう、そう決意する俺であった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
今回もお読みいただきありがとうございました!
いやー、やっぱこういうイベントってありきたりですよね~、絶対やばいですよ。
ここまで王道を踏襲してきましたが、いよいよ次回からオリジナリティ全開で行きたいと思います!
次回もぜひお読みください!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます