第3話 冒険の手始めといえば…?
「ふう、ついに出発か。この村に生まれてずっと住んでいたけど、まさかここを出る日が来るなんてな。なかなかに感慨ぶかっ!」
言葉が遮られたのはほかでもないリルに背中をどつかれたからである。
「あたた…何すんだよリル」
「いえ、何でもありませんリアム様。ただ、いつもより気が張っているようですし、第一、昨日ほとんど寝られなかったでしょう」
うぐ、本当に痛いところをついてくる。楽しみ過ぎて寝られなかったとか子供、それこそ幼学生のすることだと思ったから隠しておこうと思ったのに。
「そんな状態でそのまま行かれてはいつもの調子と相まっていよいよ死にかねないと思いましたので」
はい、本当に言うこともありません。そしてそれを指摘されてなければフラグとして普通に死んでただろう。真面目な話。
「よし、じゃあ出鼻はくじかれたけど、」
「出鼻をくじいたわけではありません、仕切り直しただけです」
「うおっほん、じゃあ仕切り直して出発しますか!」
「はい」
くっ、今のテンションとリズムがかみ合わない。まあつべこべ言ってる暇もないか。
俺に娯楽用のキワモノ能力を与えた神様よ、俺は普通に生きるのはつまらなくなったぜ。最大限楽しませてやる。いつかその鼻潰しに行ってやるからよ。せいぜい楽しんで見てろ。
こうして、キワモノ持ちの冒険者とメイドが世に解き放たれた。
☆☆☆
「こうして歩いてみると、森も結構いいもんだな」
「そうですね、雰囲気がいい森です。森といえば、もっと禍々しいものかと思っていましたが…」
俺達は今村を出て半刻ほど南に歩いたところにある森の中を歩いていた。森の中は涼しい風が吹いていて、小鳥のさえずりが聞こえたりしていて心地がいい。
「モンスターも出てこないs…なんで出てくんだよ! ふざけんなよ神様よお!」
言ったそばからモンスターが現れた。森の様子も少し禍々しくなった気がする。リルの発言もやっぱりフラグじゃないか。ちっぽけだけど。
モンスターはスライムのようだ。まあ定番っちゃ定番だな。二ホンなる架空の世界のラノベと呼ばれる歴史書でも最初はスライムだったと聞く。
「スライムか、リル! 剣は効くか微妙だ、打撃で体力を減らしてくれないか?魔法で片づける」
「分かっています! 指図しないでください、消しますよ」
ひえ、怖い。リルは戦闘の時はいつもこんな感じだ。キレやすくなる。顔はいいんだからもっと淑やかにしてればいいのに…おっと今睨まれましたね、心の声でも聞こえたんでしょうか。
「よしやるぞ、ファイアボール!」
俺は火魔法基本術、ファイアボールを出そうとした。
そしてファンブルした。ですよねー。気を取り直して、すう。
「ファイアボール!」
実体化した丸い炎が一直線にスライムへ飛んで行った。おっ、これは我ながらいい魔法だ、前より良くなった気がする。
と思った火球は、スライムと、ついでにリルの指に掠った。リルが火傷したんですけどとばかりに俺を睨む。やっぱり思うようにいかないですよね、知ってました。
「まったく、リアム様には何度痛い目を見せられたか、本当に数えきれませんからね!?」
釘刺された、ああ痛い痛い。スライムは無傷で倒したのに傷を負ってしまった。別に、こっちも好きでやってるわけじゃないんだけどなあ…
☆☆☆
リルの火傷はとりあえず回復魔法で治して機嫌を直してもらった。それで俺たちはあれからさらに1刻ほど森の中を歩いているのだが、なかなか森を抜けられない。そして最初の平和さに比べ、スライムに出会った後はかなりの敵に接敵した。スライムだけでなく、ゴブリン、オーク、バット、モグラなど。モグラが1番だるかった。地面潜るし。ちなみにあの後もリルに掠ったりしてさんざん小言を言われた。畜生。
「ふう、まだ森続くのか?もう1刻は歩いてるぞ」
「この森はかなり大きいと聞きます、あと1刻は歩いていないと抜けられないかもしれません」
マジか、まだ半分かよ。もう疲れたんですけど、休みたい、ということを思ってるとリルはそれを察したように、
「まあ、お疲れになるのもわかります。ここら辺に休めるような場所はないでしょうか」
リルはやっぱり優しいぜ。リル様感謝也。しばらくリルは辺りを探し回った後、
「あ、リアム様、こちらにどうやら見張り台のような場所が。少し休めるかもしれません。行ってみましょう」
本当に、リルがメイドでよかった。
☆☆☆
「ふう、ここが見張り台か。結構高いなー!」
そこにはかなりの大きさの見張り台が立っていた。まあ見張るんだから当然か、と思いつつもやっぱりその大きさに驚かざるを得ない。高さは・・・わからないくらい高い。
「「お邪魔しまーす…」」
返事はない。留守だろうか。まあ留守なら好都合だ。
「リアム様、こういうのなんか悪いことしてるみたいで楽しくないですか?」
リルは心なしか楽しそうだ。リルが楽しんでるならよかった、意外とおちゃめなところもあるんだな。
「ま、年頃の女の子だしそうだよな…」
「何か言いましたか?」
「いや、何でもない」
うっかり口に出ていたみたいだ。まあ、聞こえてなかったみたいだしセーフセーフ。
1階を探索して管理者を探そうとしたが生憎見つけることはできなかった。
「あ、リアム様、ここに階段が、上に上がれますよ!」
リルはここに来てからテンションが高い。やはり何かくすぐられるところがあるのかもしれない。
「階段か、もしかしたら一番上まで上がれるかもしれないしな。行ってみよう」
ま、まあいいですよね!いないってことは、拒否もできないんで!と、言い訳じみたことを考えつつ俺達は上を目指すことにした。
…階段なげー。
「そういえばさ、リルってどうしてうちでメイドなんてしてるんだ?家はあんなに大きかったんだから、家柄も良かったはずだろ?」
特に話すこともなくなってしまったので、気になっていたことを尋ねてみる。すると、リルは少し聞かれたくないという顔をした、気がする。
「別に言いたくないなら言わなくてもいいけど…」
「…では、パスで。いずれ来たる時になったらその時にお伝えいたしますね」
しまった。テンションの上がっていたリルを気落ちさせてしまった。頼むぜ見張り台よ、絶景見せてくれよ…てか、来たる時っていつよ。
☆☆☆
「着きましたよ…うわぁ!」
リルが歓喜のような声を上げた。なんだなんだと急いで階段を駆け上がると・・・
こけた。痛っ。でも、リルの見てるものが気になる。体を気遣う手間すら惜しくなって顔を上げると・・・
「おーーー!!!」
ものすごい絶景がそこにはあった。長く続く森、その先に見える花畑、さらに奥にある山脈。雄大な自然が広がっていた。そしてそれらが傾いていく日に照らされてオレンジ色に照らされている様子が、俺にはとても神々しく映った。
「夕焼けがきれいだ…って夕焼け?やべ、急いで街に向かわないと!」
「そうですね…って確かに! 夜になるとこの森はさらに危険かもしれません!」
俺達は休憩も済んだだろうと割り切り急いで街に向かうことにした。
☆☆☆
「はあ、はあ、ようやく抜けれる…」
1刻後、ようやく森を抜けることができた。結局夜になってしまった。足元も悪いし、思ったより体力を取られたし。
「はあ、お疲れ様です。こんなので息を切らしているようでは、まだまだですね」
いや、リルは、いやリル様は体力お化けすぎるんですよ!
「とまあ、森を抜けたわけだが…ん?」
森を抜けた俺たちの前に広がっていた景色は、壁。軽く10トルはありそうな壁が目の前に立ちはだかっていた。
「そうか、ここが…」
都市ホルト、到着である。
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幼学生とは日本で言う小学生です
回復魔法は光魔法に含まれます。光魔法の使えない魔導士はパーティにかなり困るとか。
ちなみにリアムは少しバカです。思うからそれがフラグになっていることに気が付いていません。そのせいで痛い目見たり迷惑かけているので、いい加減気付いてほしいですね。
次回から、本拠地はホルトになります。リアムらは仲間を探すことになりますが、思うようにいくはずもなく…?
次回を楽しみに待っていただけると幸いです。
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