第100話 シンセングミと模擬戦

「皆様方、ただいまより本日の余興と致しまして、アケボノ国の誇るSランクパーティ『シンセングミ』のトップ3、コンドウ、ヒジカタ、オキタの三名が、わが国唯一のSランク冒険者である、ジュウベエ殿のご親友である、カイン様達のパーティ『ホープダイニング』のメンバーと模擬戦を行います。どうぞお楽しみくださいませ」


 ここの領主のマツダイラさんも随分、お祭り騒ぎが好きみたいで、あっという間に領主館の広場を、今日の参加者たちが取り囲み、盛り上がりを見せていた。


「そして、この戦いを解説してくださるのは、Sランク冒険者でベッケン通商国の英雄【悪魔使い】レオネア様でございます」


「ども。レオネアです。カイン達はギルドランクこそBランクですが、先日僕たちと一緒に、この国の『ヨミノクニ』ダンジョンをクリアした実力者だから期待していいよ!」


 レオネアのさりげなくぶち込んだ情報で、広場は大騒ぎになった。


「レオネアさん。今の情報は本当の事なのですか? 五百年間に渡って『アマノイワト』で塞がれていた『ヨミノクニ』が本当に攻略されたと言われるのですか?」


「そうだよ! メーガンも居たからね。一応『シンセングミ』の人達にも頑張って欲しいから言っておくけど、チュールちゃんの装備品は、『ヨミノクニ』のダンジョンで手に入れた宝具だから、子供と思って油断したら、とっても危険だからね? 後はフィルちゃんとカインは『ドラゴンブレス』のメインメンバーでフィルちゃんは聖教会の聖女様より優秀な聖魔法使いだよー。情報だし過ぎかな? 頑張れシンセングミ!」


 レオネアが、こっちの情報晒し過ぎだが、まぁなんとかなるだろ?


 俺から見る『シンセングミ』の三人は皆、刀を装備している。

 雰囲気からして一番危険なのは…… オキタか? いやヒジカタだな。

 殺気がビンビンしている。


 オキタはあくまでも、余興として楽しむ程度の心構えだし。

 コンドウは…… どちらかと言うと、守りに強い感じか。

 魔法も使うみたいだから、ちょっと様子を見なきゃな。


 こちらは、俺が先頭、チュールが真ん中、フィルが後衛で縦一列に並ぶ。

 対して、「シンセングミ」はコンドウの斜め後ろに、ヒジカタとオキタが正三角形に並んで対峙する。


 初手はコンドウが放つ。

 大上段から距離を保ったまま振り下ろした『虎徹』から斬撃が飛んできた。

 属性は風か。

 俺はそのまま飛び上がると、チュールにそのまま直撃した。


 いきなり俺が避けて女の子に命中させたことに、ブーイングが起こるがチュールは、まっすぐに『浄玻璃の鏡じょうはりのかがみ』を構えていた。


 コンドウの初撃が正確にコンドウに跳ね返る。

 のけぞって避けたコンドウが、背中を地面に付けた。


「早速だねぇ。チュールちゃんの盾は、魔法を正確に発動者に跳ね返すから、カインに必ず当てれるんじゃ無かったら、ヤバイよー」


 次の瞬間には、フィルが聖魔法のホーリーサークルを。三人全員に当たるサイズで放ったが、これはヒジカタの張った魔法結界が防いだ。


 そして俺は、フォークを片手に三本ずつ持ち、空中から一気に投擲する。


 しかしその投擲は三人共にダンダラ羽織の袖で払った。

 中々の反応速度だ。


「さぁ初手の魔法合戦は、どちらのチームもお互いの防御方法を見極める為と言った感じのジャブの応酬だったねー。魔法ではお互い決め手にかけちゃう感じかなー。次はどういう動きを見せるんだろうね?」


 コンドウがじりじりと近寄って来ると、ヒジカタとオキタが瞬時にカインの横に移動して、ほぼ同時に居合を抜き放った。


 これに対してカインは再びフォークを両手に握り、二人の居合を受け止めた。


「ガキーン」と凄い音がしたが、オキタはすぐに刀を引き、逆にヒジカタはフォークで押さえられた刀を乱暴にねじ上げて、カインの身体を浮かせた。


 そこにコンドウが突っ込んでくる。

 チュールが生活魔法を発動した。


【穴掘り】


 いきなり10㎝ほど陥没した地面はバランスをくずさせるには十分だ。

 コンドウが倒れながらも『虎徹』を前方に放り投げる。


 ヒジカタに浮かされた状態の俺では避けるのは難しい。

 俺は、フォークに生活魔法を流し込む。


【発電】


 ヒジカタの握る『和泉守兼定』を通じて、高圧電流が流れヒジカタが白目をむいた。


空いた左手で背中の鍋蓋を構えた所に『虎徹』が飛んできて、カインの構えた鍋蓋に突き刺さる。


 そのタイミングで、オキタがもう一度踏み込み、俺を薙ぎ払う。

 俺は鍋蓋に突き刺さった虎徹を、オキタの『菊一文字』の襲い掛かる軌道に突き出し、刃をそらした。


「おっと、『シンセングミ』の三人は集中してカインに向かったが、カインの素早い反応と、チュールちゃんのアシストで、カインがしのぎ切ったーー。ヒジカタは脱落かー? コンドウは起き上がって、脇差を手にカインに向かう。着地を決めたカインは、オキタに向かって蹴りを放ったが、どうかな?」


 オキタがカインの蹴りを交わして今度は、突きの態勢に構え素早く刀を突き出す。

 とても素早い。

 三回、いや四回。

 四段突きだ。


 カインも鍋蓋で防ぐが、コンドウの虎徹が刺さったまでは、対応が弱冠後手に回る。

 四回目の突きが、カインの鍋蓋をかいくぐり、肩に突き刺さった。


 そこに、コンドウが脇差で斬りかかる。

 

「カイン絶体絶命かー? シンセングミの見事な連携で一気に追い込むー」


「私達が居るのを忘れてるんじゃないわよー」


 完全にノーマークになっていたフィルが、スタッフで力強く振り抜くと、オキタの後頭部を直撃して倒した。


 残すコンドウにもチュールが『閻魔の警策えんまのきょうさく』を足の間に突っ込み転がした。


 再び、コンドウがこけた所で、カインが腰から包丁を抜き、コンドウの首筋に当てた所で、試合終了。


「フィルとチュールから完全に目を離しちゃったのがシンセングミの敗因だねー。カインの動きは、武術を学べば学ぶほどセオリーと異なってるから、解んなくなっちゃうんだよね。防御手段もフォークと鍋蓋とか想像つかないしね」


 レオネアの実況もあり結構な盛り上がりを見せた模擬戦は終了し、フィルがカインと、シンセングミの連中を治療して、汚れた服装も浄化で清めた。


「強いなカイン。その包丁がカインのメイン武器なのか?」

「ああ。そうだ。解体には凄く使い易いんだ、このまま続けてたら、こいつで関節から、手足を切り離してやろうと思ってた」


「こええな」

「フィルが居れば、ちゃんと繋がるから心配無用だ。まぁコンドウがフィルやチュールを狙わなかったから、助かったよ」


 オキタとヒジカタも起き上がって来た。


「久しぶりに負けたよ。ジュウベエとやって以来だ。お前たちが一緒に行動したんなら『ヨミノクニ』の攻略も納得いくな。で、あそこの最下層はどんな奴が出て来たんだ?」


「レオネア。ヒジカタが見たいようだから、呼んでやれよ」

「ん。あー了解! ちびっちゃだめだよ!」


召喚サモン】閻魔


 レオネアに呼び出されて姿を現した閻魔大王に、会場の人間がみんな腰を抜かす。


「誰を地獄に送る?」


「今日はいいよ。閻魔の威光をアケボノの人達に知ってて貰おうと思っただけだからね!」

「忙しいのだから、用事がない時に呼ぶでない。帝国方面から無駄に沢山の魂が送られてきて、今は忙しいのだ」


「たまには休まなきゃ、体に良く無いよ? じゃぁ戻っていいからね」


 レオネアの言葉で閻魔は消えて行った。


「あれが、ヨミノクニのラスボスの閻魔さんだよ。みんなも死んで魂になったら、天国行か地獄行を決めてくれるから、日ごろから正直に生きて行くようにね?」


 なんだかんだで、この日のパーティは盛り上がった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る