第99話 アカシの領主邸

 馬車が領主邸に到着する。

 衛兵がジュウベエから招待状を受け取ると高らかに名前を呼びあげた。


「Sランク冒険者ジュウベエ様とそのご一行様のご到着です」


 そのお触れの声に従って、今日のホストである領主が、夫人と世継ぎであろう息子を伴って姿を現した。


「ようこそ、おいで下さいました。ジュウベエ殿。アカシの領主ケント・フォン・マツダイラ子爵です。このアケボノの誇るSランク冒険者とお会いできて嬉しく思います」


「ご丁寧にどうも。ジュウベエだ。連れも紹介させて貰おう。俺と同じくSランク冒険者のレオネアと、今は一緒に行動をしているカイン、フィル、チュールだ。よろしく頼む」

「なんと、ベッケン通商国の【悪魔使い】殿もご一緒でしたか。カイン、フィル、チュールの三名もよく来てくれた。今日はゆっくりして行くがよい」


 なる程…… こんな席だと、やはりSランクと言うのは効果が絶大なんだな。

 でもその分抱え込む面倒も多そうだから、別に今のままで構わないけどな。


 俺達は、頭を下げるだけでその場をやり過ごした。


「ジュウベエ殿は、今日のパーティには何故出席されようと、思われたのですか?」

「ああ。丁度昼にな。アカシの市場を見ていたら極上のマツターケンを見かけてな。買おうと思ったら、もうこの屋敷に買われてると聞かされて、ご相伴にあずかろうと思ったんだ」


「なる程そうでございましたか。今日のパーティのメイン料理として、うちの料理番たちが、腕によりをかけて調理を致しますので、ぜひお楽しみください。アカシ鯛とアナゴも極上の物をご用意しておりますぞ」

「そいつは楽しみだ。ご馳走になろう」


 俺達が、パーティ会場に入って行くと、今日はアケボノ風庭園での立食パーティだった。


 みごとな和風の庭園は大陸では見る事の出来ない、侘び寂びの世界を作り上げていたが、今日のメインは庭園に植えられたモミジの紅葉を楽しむ会と言うのが主な趣旨であるようだ。


 庭には広大な池もあり、ニシキゴイと呼ばれるカラフルな鯉が泳いでいる。

 丸々太っているが、あまり美味そうには見えないな!


 そして、正面には調理場が作られていて、そこでこの屋敷の調理番たちが、二百人は居る招待客たちに対しての料理を作る為に、腕を振るっていた。


 メインは寿司と天ぷらだな。

 目の前で揚げたて、握りたてを提供してくれる。


 てんぷら油から胡麻の香りが漂い、食欲をそそる。

 招待客たちも、皆、料理を楽しんでいる。


 そして、2mサイズの巨大なマツターケンもその場に飾られ、まずは縦半分に割られて、調理されて行く。


焼きマツタケ

土瓶蒸し

釜めし

天ぷら

勿論すしだねにも使われている。


 天然物のマツタケの何倍も香りが高く、辺りはマツターケンの香りが支配する。


 状態異常の効果はもう無い筈だが、参加者たちの表情はうっとりしている。

 

 やっぱ美味い食事を目の当たりにすると幸せな気分になれるよな。

 そう思いながら、俺達も食事を楽しんでいた。


 『シンセングミ』の五人も会場で、食事を楽しんでいる。

 結構、人気者みたいで参加している、来客たちとも会話を楽しんでいる様だった。


 俺達の姿を見つけ、近寄って来る。


「どうだ? 楽しんでるか?」


 コンドウが声を掛けて来た。


「ああ、招待状を送って貰えたお陰で美味い飯に有りつけた。礼を言う」

「カインと言ったか? お前は武器らしいものは装備してない様だが、何の職業なんだ?」


「ああ。俺は、料理人だ。今もこのマツタケで俺なら何を作るか考えていた」

「料理人が、ジュウベエと一緒に行動するとか、付いて行けるのか?」


「まぁそれなりにはな」

「コンドウ。カインを甘く見ると痛い目にあうぞ。本気でやり合っても俺より強いかも知れない奴だ」


「なんだと? そいつ面白いな。俺と戦わないか?」

「それはあまり気が進まないが、俺が勝ったらあのマツターケンの残り半分を料理させてくれるならいいぞ」


「料理させるだけでいいのか?」

「そうだな。勿論出来上がった料理はみんなに振舞おう」


「変わった奴だな……」


 それを聞いていたのか、領主のマツダイラさんが寄って来て声を掛けた。


「面白そうな話をしているでは無いか。ジュウベエ殿一人と、シンセングミの五人で余興の模範試合をしてもらおうと思っておったが、カイン殿もジュウベエ殿が言う程に強いのなら、是非その技を披露して貰えぬか?」

「解りました。模範試合の後は、マツターケンの残り半分を使って料理をしても構いませんか?」


「それは許可をしましょう」


 と言う事で、俺が戦う事になったが……


「じゃあ、シンセングミの五人とカインとの戦いで構わないな」

「ジュウベエ。お前俺に何かうらみでもあるか?」


「いや、勝てるだろ?」

「魔法使いとか居るのか?」


「みんな使えると思うぞ、こいつらはみんな脳筋に見えるが、バランス型の戦いをしやがる」

「構わないが、ギリギリで戦うと大怪我させたら悪いからな……」


「カインお兄ちゃん。怪我は即死だけ気を付ければ、私が何とかするよ?」


 俺達の会話を聞いて、流石にシンセングミの連中も舐められたと思ったのか、「こちらから三人とそちらのSランク以外の三人でと言う事で良いか?」と指名して来た。


 チュールとフィルに確認してみると、頷いたのでそれで決まった。

 普通に子供にしか見えない、猫獣人のチュールを指名するのかよ? と思ったが、チュールには『閻魔の警策えんまのきょうさく』と『浄玻璃の鏡じょうはりのかがみ』があるから、大丈夫そうだな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る