第98話 アカシと言えば

「ガンダルフ。Ωオメガは任せたぞ」

「ああ。クラーケンの粘液を頼むぞ。転移門一組で5リットル程の量が必要だからな。俺は枠の部分の錬金と魔法陣の書き込みを、やって置く」


 俺達はオメガを降りて、まずは、アカシの街の食材をチェックだ。


「ジュウベエ。ここの特産品って何なんだ?」

「俺に聞くより、街の人に聞いた方が間違いないと思うぞ」


「そりゃそうだな」


 早速、街の中で海産物を取り扱う店を見つけたので寄ってみた。


「この街で名物って何があるんだい?」

「お、その恰好から見ると、大陸からのお客さんかい? この街には美味い魚介類が沢山あるぞ。まずは、アカシの三大名物『アカシタコ』『アカシ鯛』『アナゴ』だ。それに『車エビ』や『シャコ』もこの辺りの物は、物が良いと全国から引き合いが多いんだぞ。それぞれに、オリジナルと魔物化したのが居るんだが、味は魔物化した物の方が美味いな。手に入れるのは大変だが、味は保証するぞ」


 聞いただけで、めちゃ食べたくなって来た。

 と言うか料理を作りたくなって来た。


 魔物化した鯛とか車エビって絶対美味いはずだ。


「そう言えばクラーケンって市場に出て来ないのか?」

「あいつは、ここらの漁師じゃとてもじゃないが手に負えねぇよ。全長20mを超えるタコの魔物だからな」


「お。クラーケンってタコなんだ」

 

 魚屋のおっちゃんの話では、船を襲ってウズシオに引き込むし、ヌルヌルの粘液で、ベチョベチョにされるとなんか目覚めるらしいしな……」


 目覚める? ってなんだ。

 聞きたいような聞きたくない様な嫌な予感がするな。

 

「今日は魔物の海産物は入荷してないが、タイとアナゴは良いのが入ってるぞ」

「お、じゃぁそれを貰おう。トロ箱で三箱ずつだ」


「お客さん豪気だね。全部で十二万ゴルだが、十万ゴルに負けとくぞ」

「サンキュー!」


 購入したタイとアナゴを魔法の鞄に仕舞いこんで、今度は八百屋に向かう。

 ここには、ひときわ目を引く巨大なキノコがあった。


「このキノコはなんだい?」

「気になるかい? 目が高いな。今日入荷したばかりのマツタケの魔物だ。この辺りで一番の冒険者パーティ『シンセングミ』が納品した極上品だぞ」


 そこに置いてあるマツタケは、全長二メートル程もある、傘の開いてない巨大なマツタケで。独特の香りが辺り一帯を支配していた。


「こいつが生きてる時にこの香りを嗅ぐと、幻覚や睡眠の効果がランダムで引き起こされて大変な事になるそうだからな。こうやって綺麗な形で倒すのは凄く難しいんだぞ」

「こいつはいくらするんだ?」


「あー済まん。こいつはもう売れちまったんだよ。今日の領主様の館のパーティで使われるそうだ。今から配達に行くところだ」

「そうか。残念だな」


 そんな会話をしてると、揃いの浅葱色のだんだら模様の羽織を着こんだ一団が現れた。


「店主! 今日の領主のパーティに俺達も呼ばれてな。そのマツタケの魔物を持ってきて、討伐の話を聞かせて欲しいと頼まれたから、納品も俺達が持って行ってやる」

「解りました。大八車で運ばれますか?」


「そうだな。魔法の鞄で運ぶより、通り沿いの人々に見せながら運ぶ方が有難みがあるだろう」


 俺達が見ている中を、八百屋の大八車にマツタケの魔物を積み込み。五人で大八車を引いて行こうとした。


「おい。コンドウ。久しぶりだな」

「ん? ジュウベエか。久しぶりだな。どうだ俺達の倒したこの『マツターケン』香りが凄いだろ」


「ああ。美味そうだ。領主に俺達も参加できるように伝えておいてくれないか? 今日はアカシで宿をとるからな」

「頼んでおこう。何人だ?」

「五人だ」


「だが、ジュウベエが参加したら、余興好きの領主の事だ。俺達とジュウベエの模擬戦を見せろとか言い出すぞ? 構わないのか」

「久しぶりに顔を合わすから、どの程度腕を上げたのか見てやろう」


 ジュウベエはシンセングミと顔見知りだったようで、なんか勝手に話を進めていた。


「ジュウベエ。知り合いだったのか?」

「ああ。あいつらは俺を除くとアケボノでは最強のSランクパーティだ。個人ではリーダーのコンドウがAA他の四人もAランクだから、ドラゴンブレスと実力的には変わらないんじゃないか?」


「へーそうなんだ。揃いの和服とか格好いいな」


 俺が、そう言うとコンドウが俺にも話し掛けて来た。


「普段つるまないジュウベエが一緒に行動する連中には非常に興味があるな。出来る事なら、今日の余興でお手合わせ願いたい所だ」

「俺は、余り争いごとは好きじゃないんだけどな?」


「カイン。嘘ついた」

「チュール。別に好きじゃ無いのは本当だぞ?」


「まぁ良い。領主の許可を貰ったら宿へ使いを出す。いつものタジマ屋か?」

「ああ。そうだ」


 俺達は一度宿へとチェックインして、アカシの街を散策していた。


「シンセングミってどういう連中だ? さっきの感じだと、別にジュウベエと敵対してる訳じゃ無いよな?」

「うむ。仲がいい程でもないが、顔見知り程度だ。この国では魔物関連で高難度の問題が発生すると、大体シンセングミが対処しに行くが、それでも無理だと俺に話が来る」


「ニャーズの街のライガースと同程度かな?」

「そうだな。それよりは強いと思う。クランもあるから組織的な討伐には力を発揮する」


「そうなんだな。奴らもクラーケンは獲って来ないのかな?」

「あいつはな…… 魚屋のおっちゃんも言ってただろ? ネチョネチョにされると当分トラウマになる」


「まじかよ。必要なのは粘液だから、そのネチョネチョが必要なんだけどな」

「そうだな……」


「なんか、僕たち女性陣は関わらない方が良さそうな案件だよね?」

「その方が良いと思う……」

 

 ジュウベエもなんか相当嫌そうだな。


 街の散策を終え、宿に戻ると領主からの招待状が届いていた。


「ジュウベエは流石にアケボノじゃ有名人なんだな」

「まぁここの領主だと、爵位が子爵だから俺達みたいなSランクが『行きたい』って言えば、断りにくいんだろうな」


「そんなもんなんだな」


 それでも、美味い物が食えそうな機会が訪れたら、断る理由も無いし行くんだけどな。

 宿の亭主に頼んで馬車を呼んでもらい、五人で領主邸へと向かった。

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