第97話 アカシに向かう

 シグマのエネルギー充填が出来たので、ユグイゾーラに向けて出発した。


「ガンダルフ。どれくらいの時間が掛かりそうだ?」

「おい。カイン。今のメンバーって誰も世界樹の小枝ユグトゥイグを持って無いんじゃないか?」


「あ、そうだ。参ったな。だが異動速度はそんなに早く無さそうだし、前回行った辺りまで行けば、上空から見たら解るんじゃないのか?」

「取り敢えずそれで、向かって見る」


 前回ユグイゾーラに向かった時には、聖教国の遥か北側にある針葉樹の森の中だったので、その辺りに向かって出発した。


 オメガの中でお茶を飲みながら話していると、ジュウベエが聞いて来た。


「カイン。古代遺跡の場所をアルファは知っていたけど、ダンジョンの場所も全部知ってたりするのかな?」

「ん? どうだろ。聞いてみよう。アルファ。ちょっといいか?」


「ご主人様何でございましょうか?」

「ダンジョンの場所って、アルファ達は知っているのか?」


「お答えします。ダンジョンと呼ばれる場所のデータは御座いません」

「そうなんだ。もしかして、アルファ達の作られた時代には、ダンジョンが無かったとか?」


「お答えします。私たちが造り出された当時のデータは、文字識別以外の知識は一通りインプットされていますので、恐らく存在していなかった筈です」

「って事は、ダンジョンは古代文明の次代から、現在に至るまでの間に出来たと言う事か。今の世界史で記述があるのは精々ここ三千年の間の歴史だけだから。空白期間が7000年くらいはある筈だ。その間にダンジョン発生に繋がる何らかの事象が起こったって事だな」


「ふーん。誰かが造ったのかな? まぁダンジョンの場所はギルドに聞けばその地方に存在してるダンジョンなら教えて貰えるから、別に問題は無いよね?」

「まぁそうだな」


 でも、一体古代文明は何で滅び去ったのかが気になるな。

 現在のダンジョンの発生と全く関係ないとも思えない。


 三時間程の飛行で、前回ユグイゾーラが存在していた場所まで辿り着く。

 そこで、見た光景に目を疑う事になった……


 あの巨大な世界樹の島ユグイゾーラの本体ともいえる、TB亀テラバイトタートルが回転しながら浮かび上がっていたのだ。


「すっごい迫力だね。ハイエルフ様たちって、あの亀の上で目を回したりしないのかな?」

「だが、あの状態だと俺達が上陸するのも不可能だな。ガンダルフ。見失わない様に、追跡してくれ」


「解った。しかしあの亀が飛ぶ仕組みを、突き止めたいぞ。解剖してみたいな」

「ガンダルフ…… 絶対それハイエルフ様たちを敵に回すからやめた方が良いと思うぞ?」


「残念じゃな」


 そのまま北の海上に飛んで行くTB亀を追跡して行くと、海上が氷に覆われた辺りで、漸く氷の上へと着陸した。


 手足を引っ込めた状態で、TB亀が氷上を滑る。


「僕こんなのどっかで見た事あるな。箒で進行方向掃きながら、陣取りするゲーム。確か『カーリング』だっけ?」

「あれはこんなに石がでかくねぇだろ!」


「って言うかさ亀って氷の上で行動できるのか? 冬眠しそうだな」


 動きの止まったTB亀の側にオメガも着陸させて、俺達はアイシャとナディアに会いに行った。

 アイシャに、爺ちゃんが旅立った事を伝えたが「お父様は、旅立つ時にこちらにもお知らせくださいました。「賢者を受け継ぐ者」として精進します」とメガネの中の瞳が力強い決意をしていた。


 シュタットガルドから、絶対記憶を受け継いだお陰で、古代エルフ語の理解は、ナディアと共に随分と捗っているそうだ。

 この調子なら、一年は掛からないだろうって事だった。


 不思議な事に、極寒の地に来てるのだが、TB亀の上だけは別段寒くも無く、普段通りの生活が出来そうだ。


「世界樹の結界の中では、何処へ行こうと安定した気温の中で生活が可能です」とハイエルフのミカエル様が教えてくれた。


「ミカエル様。ユグイゾーラの行き場所は、ミカエル様たちの意志では決められないのですか?」

「そうです。世界樹を宿すTB亀の赴くままですね。流石に今回のような星の極点に来た事は今までで初めてですが、何か大きな変化が起こる前触れかも知れません」


「ハイエルフ様たちの間でも、古代文明の崩壊とダンジョンの発生に関しては、言い伝えは無いのでしょうか」

「カイン達は、それを知り、どうしたいと言うのですか?」


「解りません。今はまだ」

「そうですか…… あなた達が何を成したいのか決まれば、話を聞きましょう」


 ミカエル様はきっと何かを知っているのかもしれないな?

 と思ったが、取り敢えずは俺達もやりたい事が盛りだくさんだし、今は抱え込む事を止めておいた方が良いだろう。


 俺達は予定通りにアケボノ国を目指して飛び立った。


「ジュウベエ。クラーケンと戦った事はあるのか?」

「いや…… あいつは、俺とは相性が悪い」


「まさか絶壊刀では切れないのか?」

「そうだ……」


「魔法攻撃だと倒しやすいとは聞いたけどな」

「魔法か…… 爺ちゃんが居ない今だと、俺の生活魔法か、フィルの聖魔法くらいしか無いな」


「カイン。忘れて無い? シグマなら普通に倒せると思うよ」

「お、レオネア。それ採用! じゃぁさっさと片付けて、レオネアの希望の魔国の古代遺跡を目指そうぜ」


「カイン。アカシも海の幸ではエドの街以上に名品が溢れているからな。美味い魚を仕入れて料理作ってくれよ」

「それも楽しみだな。最近はヨミノクニとか古代遺跡ばかりだから、全然新しい食材と出会えてないし、俺的にも禁断症状が出始めてた所だ」


 折角だから、俺はまだ食べた事の無い、クラーケンを料理してみたいと思い、まだ見ぬ敵の姿を想像しながら、アカシの街に辿り着いた。

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