第101話 アカシ鯛とマツターケンの骨蒸し
「無事に勝ったから、飾ってあるマツターケン使わせて貰って料理作ってもOK?」
「約束ですから、ご自由にどうぞ」
「やったぜ! 他の食材なんかも使わせて貰っても良いかな?」
「構いませんが、調味料関係以外は食材で使える様な物は残っていませんよ?」
「あるじゃないですか! 超美味そうなのが」
そう言って俺が指さしたのは、大量のお刺身を作った後に残されていた、アカシの鯛の骨と頭だった。
鯛はぶっちゃけて、この頭と骨から出るスープが最高に美味いんだ。
20匹分程あった、頭と骨を回収して早速取り掛かる。
頭をまず縦半分に割って、骨もヒレの部分を切り離して、六等分程度に切り分け、塩を当て三十分程寝かせる。
余分な水分が染み出して来たら、大量に沸かして置いた熱湯をくぐらせる。
流水で流しながら、残ってる鱗や血合いを丁寧に取り除く。
これはチュールとフィルにも手伝って貰った。
下ごしらえが終わると、骨と頭を水で洗った出汁昆布を敷いた器に並べる。
その上に純米大吟醸酒を振りかけ、マツターケンを食べよい大きさにカットして、軽く塩を振って一度表面を炙り、香りを出したものを綺麗に並べる。
豆腐を一口大に切り、横に添える。
この豆腐が、この料理の本当の主役と言ってもいいかもしれない。
後は蓋をして、蒸しあげるだけだ。
料理は技巧を凝らす事が最善では無く、素材の持ち味を引き出す事が究極なんだと思う事が出来る一品だ。
『アカシ鯛とマツターケンの骨蒸し』が完成した。
ポン酢を用意して、料理をみんなに振舞う。
口にする事が出来た人はみんな口を『ポカーン』と広げ、余韻に浸っている。
蒸し皿の蓋を開けた途端に広がる、マツターケンの香りが会場を完全に支配していた。
二百名程の参列者が居たが、全員に行き渡らせるように取り分けた。
アカシ領邸の料理人たちにも振舞った。
この最高の素材の組み合わせを、全員で満喫出来た。
「どうだ? 美味いだろ」
参加者の人達が無言で頷いた。
俺も満足だぜ。
「カイン。この料理凄いな。特に胸ヒレの所にある骨に張り付いた肉が最高だ」
「ジュウベエ意外に味がしっかり解るんだな。そこはタイのタイと呼ばれる、一番運動量が多くて発達して筋肉がある場所で、味も良いんだ」
「僕はこの目玉の周りのズルズルっとしたと所が、気に入ったよー」
「レオネア。そこもコラーゲンが豊富で栄養もたっぷりな、お薦めの場所だぞ」
そして何よりもその旨味を全て吸い込んでると言っていい、お豆腐が最高だ。
この3㎝四方の豆腐一切れが、1万ゴルだと言われても惜しくない!
料理も出来て満足した俺達は、翌日クラーケン退治をしに行くからと、早めに宿へと戻る事にした。
すると『シンセングミ』のコンドウ達が寄って来た。
「ウズシオにクラーケンを狩りに行くと聞いたが、俺達も一緒に行かせて貰ってもいいか? Sランクの狩りを目の当たりにする事が出来る機会は滅多に無いからな。今日カインと戦って見て、まだまだ『シンセングミ』も色々足りない部分があると感じたから、クランの連中を引き連れて、行こうと思う」
「ちょっと待ってくれよ。色々見られたら困る事も無いけど、びっくりする部分があると思うから、確認させてくれ」
「びっくりする? なおさら見たいな」
一応、ジュウベエとレオネアに聞いて、この連中にオメガやシグマの事がばれても問題無いかを確認した。
「俺達は、何もないぞカインさえ良ければな」
中途半端に隠したりするよりは、圧倒的な力を見せてしまった方が、後々文句を付けられることも無いと思ったので、観戦する事を許可した。
「因みにコンドウ達はクラーケンの討伐は、出来るのか?」
「過去にクランで依頼を受けて、挑戦したが、その時は一体倒す事に成功した物の、こちらは交易用の大きな船を二隻と、クランのメンバーを十名失いながらの討伐になったので、全く採算が合わなかった」
「なる程なぁ。先に言っておくけど、今までの常識で考えたらダメだからな?」
「どんな手段なんだ?」
「まぁ見てのお楽しみだ。朝の九時から始める」
「確実に倒せる当てがある用だな。うちのクランでタコパの準備でもしておこう」
「なんだ『タコパ』って?」
「知らないのか?」
「フィル。タコパって解る?」
フィルもチュールも首を横に振るだけだった。
「じゃぁ俺も見てのお楽しみだと言っておこう。きっとカインなら気にいる筈だ」
こうして翌日のクラーケン討伐を迎える事になる。
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