第95話 決戦②

 一瞬の隙を見せた、シュタットガルドの黒曜石の身体にアンナの手が触れる。

【収納】そのボディは、アンナの持つ魔法の鞄に飲み込まれた。


 だが……


 魔法の鞄は生命体を収納できない。

 この場合における生命体とは、意志ある者であった。


 身体の黒曜石ゴーレムだけを奪われた、シュタットガルドの意識体所謂いわゆる霊魂がその場に取り残された。


「爺ちゃん…… マジかよ。詰めが甘すぎるぞ。ちょっと行って来る」

「カイン。私が行きましょうか?」


「メーガン。爺ちゃんならしょうが無いと思ったけど。爺ちゃん以外にはギースを倒すのは譲れない」

「解ったわ。任せましょう。もしカインが破れるような事があれば、ギースの『ゼクスカリバーン』は正当な所持者がギースになってしまいまって更に厄介になるので頼むわね」


「その時はメーガンに任せるよ、ジュウベエとレオネアも居るし大丈夫だろ?」

「場合によっては、俺達の武器も覚醒させに行かなければならないのかもな」


「僕はきっとカインが勝つと思ってるよ?」

「根拠はあるのかレオネア」


「感かな」

「当てにならねぇな」


 そんな会話をしてると、後ろから声がした。


『お主ら儂があれしきの事でやられたと思ってるんじゃなかろうの』

「キャッ、お化け」


『まぁ間違ってはおらぬな……』

「爺ちゃん飲み込まれなかったのか?」


『身体だけじゃ。黒曜石ゴーレムでは圧倒的に質量が足らぬ、魔法の鞄で対処されてしまうわい。カイン。Σシグマを借りる』

「ええ? まぁ良いけど、変りがないから壊すなよ?」


『壊したら替わりのある場所を聞けばよかろう』

「聞くって誰にだ?」


『気付かぬか?』

「勿体ぶるなよ」


『戻って来てから教えてやろうかの、それまで考えて置け。宿題じゃ』


 そう言って、爺ちゃんはシグマの中に入り込んで行った。

 三つの頭を持つヒュドラ型ゴーレムがオメガから飛び立ち咆哮を上げた。


「「「ギャオオオオオオオオオオン」」」


 その姿にギースの率いていた兵士の生き残りも、一目散に逃げ始めた。

 ギースが叫ぶ。


「こら、待て貴様ら。逃亡は許さん!」

 

 最大出力の『ゼクスカリバーン』がその聖なる刃を100m程にまで伸ばして、自分の部下を切り裂いた。

 一撃で逃げ始めた二百人を切り捨てた。


「そろそろ…… かしら」

「ん? 何がだ」


「ギース程度の実力で、あの聖剣と聖鎧をフルパワーで使い続けるのは、限界と言う事です。よく見てみなさい」


 そうメーガンに言われて、ギースを見ると自慢のプラチナブロンドの髪は荒れ果てた白髪に、透き通った白い肌には多くのしわが刻まれ、赤黒く光る眼だけが目立っていた。


 ミルキーが、無作為にシグマに向けて魔法を連発しているが、シグマはその魔法を、エネルギーとして吸収していく。


 更に、再びのアンナの奇襲がシグマの身体に触れる。


【収納】


 だがシグマの巨大な身体を収納するには、アンナでは魔力が足らなかった。


 足元のアンナを、シグマの三つ首の一つが襲う。

 一撃でその身体を食い千切った。


 アンナの頭部がミルキーの足元に転がる。

 ミルキーは…… 失禁した。

 その様子を見た、シグマの中央の首は食いつこうとしたが、首をそらした。


「小便臭いの嫌なんだな爺ちゃん……」


 そして、残されたギースにヒュドラの三つの首が一斉にブレスを吐いた。


 氷、雷、炎の三つのブレスが絡み合いながら、ギースを襲う。

『ホーリークロス』からエンシェントドラゴンの姿をしたオーラが立ち上がり、その攻撃を結界が防ぐ。


 だが…… 徐々に立ち上がったエンシェントドラゴンのオーラが小さくなっていく。


 ギースの姿は最早シュタット爺ちゃんより老けて見える。

 それでも『ゼクスカリバーン』を構えよろよろと近づいて来てシグマに斬りかかった。


「ギースよ鏡を見てみろ、今のお前に比べればわしの方が、よっぽどヤングじゃぞ」

「てめぇシュタットガルドか? 俺の覇道をこんな所で終わらせるかよぉおお。俺は神なんだあああああああああああああああ」


「いや、お前は神なぞには一億回死んでもなれんな。ただの雑魚じゃ」


さらに出力を上げたシグマのブレスが遂に『ホーリークロス』の結界を削り取り、輝きを失った。


「ギースぅううううううううううう」


 ミルキーが倒れたギースに抱き着いた。

 だが…… 直前までシグマのブレスに晒された『ホーリークロス』を纏った身体だ。


 抱き着いた瞬間にミルキーの身体は『ジュワッ』という音と共に蒸発した。

 そして立ち昇った煙がギースの身体と絡み合う様に空に消えて行く。


 その様子を見ていた俺の目に涙が浮かんだ。

 隣に居たフィルが俺の胸に顔をうずめる。


 チュールが声を掛けて来た。

「今はフィルだけにカインを譲ってあげる。今だけだよ……」


 俺達はみんなでオメガを降りて、シグマの足元へと行った。


「爺ちゃんお疲れ」

「おう、流石に疲れたわい。まだ時間はあるがやるべきことは成し遂げた。姉御頼む」


「【賢者】シュタットガルド翁。立派でしたわ。あなたの人生は私が語り継ぎます」

「やっと坊やから卒業出来たようじゃな」


 三対六枚の翅を出現させたメーガンがシグマを浄化する。

 天から黄金色の光が降り注ぎ、シュタット爺ちゃんの姿をした魂がその中を上昇していく。


「あ、爺! さっきの答えまだ聞いてねぇぞ」


 シュタット爺ちゃんは舌を出しながら消えて行った。

 

「カイン『ゼクスカリバーン』と『ホーリークロス』は使いますか?」

「いや、メーガンが持っててくれ。俺が死ぬ時には止めを刺してくれよな」


「そうですね……」


 俺はエネルギー切れで動かなくなったシグマを収納してオメガへ戻った。


 この戦闘を見た者達が、人間同士の戦争など無駄な事だと気付き、帝国の戦火は一気に収束していく。


 この争いの後始末を付けるために、マクレガー大佐は奔走する事になる。

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