第94話 決戦①
「大丈夫だとは思うけど、何かあったらメーガンがこの飛行船を引き継いでくれ。アルファ達にもそう指示を出して置く」
「カイン。馬鹿な事を言ってないで、さっさと終わらせてきなさい」
「ああ」
俺と爺ちゃんとフィルとケラの三人と一匹で、オメガから降りた。
この辺りは、かなり激しい戦闘が行われていて、通商国で雇われた傭兵団と、北部辺境伯の軍が居てあるところで激突している様子が伺える。
「さっき光の攻撃が見えた場所は、このまま山に進んだところだったな」
「うん」
俺達が、山の方角を見ると、そこから総勢で500人は超えるであろう一団が、隊列を整え真っすぐに王都方面へと進軍している姿を見かけた。
「見て、カインお兄ちゃん。あの一段の中にギースとミルキーが居るわ」
「二人だけか?」
「えーとね。ギースの班に居たクノイチの子も一緒に居るわね。確か名前はアンナだったかしら」
「どう思う? ミルキーやアンナも倒さなければならないのかな」
「先にシュタットお爺ちゃんに、ギースをどうにかして貰って、ギースとアンナは拘束できるならその方が良いと思うんだけど」
「そうだな。一応、俺がギースに声を掛けてみる。それで戦闘になるようなら、爺ちゃんに任せよう」
「解ったぞい。じゃがなカイン。奴を許すような甘い決断をしてはならんぞ? 皇宮の人間や、農村の人間など大勢の罪なき人を殺した報いは受けなければならぬからの」
「ああ」
カインは、ギースの居る方向に進み声を上げた。
「ギース。お前はやり過ぎた。元の仲間として、幼馴染として、お前を止める」
「カインか。久しぶりだな。低レベルの役立たずの分際で、俺の前に立ちはだかるのか? そのまま逃げかえるなら殺さないでおいてやるぞ?」
そう言葉を返す、ギースの目は赤黒く人の物には見えなかった。
俺が、ギースとの会話をしていると、ミルキーがフィルを見つけて声を掛けて来た。
「フィル。なんであんたがここに居るのかな? あんたのさ、回復魔法は凄い便利だし、このままカインとか見捨てて、私達の所に戻っておいでよ。ギースが帝国の、いえ、世界の支配者に成ったら、フィルも良い生活出来るよ」
「ミルキー。私は、そんな事に興味はないわ。罪もない人々を殺して平然としている、ミルキーやギースの仲間に戻りたいなんてありえないから」
「ふーん。もう仲間じゃないんだね。それなら邪魔だから死んでよね」
ミルキーがそう言うと同時に、私達が話してる間にひそかに近づいていたアンナによる奇襲攻撃が、フィルを襲った。
アンナは瞬間でフィルの背後に近づき背中から、毒クナイを投げつけて来た。
その刃がフィルに刺さる寸前に、ケラが飛び出しフィルを守った。
フィルの身体に毒クナイが突き刺さる。
「ケラ…… ごめん。私が油断したばかりに、すぐ治してあげるね」
次の瞬間には、カインの投げたフォークが、アンナの腕に刺さる。
続けざまに、投擲をしようとしたアンナが、クナイを落とし、ギースの元に駆け寄る。
「てめぇら。許せねぇ」
そう、俺が叫ぶと同時に、ギースも叫ぶ。
「たかが三人程度、踏み潰してやれ。こいつらの首を持ってきたやつは、貴族にしてやる」
その声と同時に、ギースの配下500名が俺達を目指して進んで来た。
「駄目だな。爺ちゃん任せていいか?」
「うむ」
黒曜石ゴーレムの爺ちゃんは、躊躇なく500人の兵士に対して、魔法を打ち込んだ。
「カイン。ケラとフィルを連れてオメガに戻っておれ。ここに居ると巻き込みそうじゃ」
「解った」
俺はケラを抱え上げると、転移門を広げてオメガへと戻る。
今の一撃だけで半数以上が倒れたが、ホーリークロスに守られたギースは平然と立っていた。
「黒曜石ゴーレムが、魔法を使うだと……」
「お前を生き延びさせてしまったのは、わしの失態じゃったからの。心残りで、お前を一緒に地獄に連れて行く為に戻って来てやったぞい」
「その声は、糞爺か」
「年長者を敬わんか。糞ガキが」
「ギース。あいつの身体は黒曜石ゴーレムだから、きっと魔法の鞄を使えば、どうにかなるわよ」
「なる程なミルキー。『アンナ』俺とミルキーで爺の気を引くから、魔法の鞄に閉じ込めてくれ」
「やってみます」
ミルキーが、火魔法を続けざまに撃ち込み煙幕を張ると『ゼクスカリバーン』を振り回しながら、ギースが迫って来る。
「相変わらず下手糞な剣じゃな。少しは鍛錬と言う物をせぬか」
「ぬかせ。この剣と鎧があれば、剣技などあろうとなかろうと関係ない。目の前の邪魔者を叩き潰すだけだ」
逆上したかのように剣を振り回し始めたギースの『ゼクスカリバーン』が青白い聖光を発しながら襲い掛かる。
(聖光はわしとは相性が悪いの。一撃当たればこの身体では耐えきらぬぞ)
一際大きく輝いた剣を、横に振り抜いた瞬間に、ギースの周りに居た、生き残った兵士たちの身体が、上下に別れその場を血の海に変えた。
「狂っておるのか…… 自分の兵士をいとも簡単に殺すなど」
「ん? 奴らは神たる俺の手に掛かる事で、天国への道を登れたのだ。気にするほどの事ではない」
「その思考が狂っておると言うのだ」
余りの惨劇に、常識人であるシュタットガルドは一瞬の隙を見せてしまう。
クノイチのアンナにその黒曜石ゴーレムの身体を触れられた。
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