第56話 はばたく

 俺達はアルファの後ろを付いて、一階に降りて行った。

 

「ここでございます」


 そうアルファに示された場所には、俺が古代遺跡で見たのと同じようなケーブルがあった。


「ここに、ヒュドラを出すのか?」

「はい。胸の辺りにあるコアを触れながら、ケーブルを繋いでください」


「解った」


言われた通りにヒュドラを取り出すと、胸の辺りに確かに水晶の様な物が嵌っていた。


「ケーブルは何処に繋ぐんだ?」

「コアの上に一枚逆向きの鱗があります。そこを手前に倒してください」


 すると確かに、ケーブルの差込口と同じ形状の差込口が現れた。


「刺していいんだな?」

「はい」


「みんな。念のために離れていろよ。こんな密室で暴れ始めたら。俺でも無理だから」

「俺に任せろ」


 そう言ってジュウベエが背中の、でかい刀を構えて俺の横に立った。


「ジュウベエ。その刀、刃が無いじゃねぇか」

「刃などあれば、欠けるだけだからな」


「意味わかんねぇよ」


 まぁプラグを差し込んでも、暴れる事は無かったからジュウベエの出番も無かった。


 まだメーガン以外の三人の戦闘力が全然未知数だな。

 だが、メーガンが一対一なら同程度と言ってたし、決して弱くは無いんだろうけど。


 俺が相手をしたとして、メーガンの攻撃を避ける事は出来そうだが、倒せる気がしないからな。


 瞳に光の戻った三つの首は威圧感があるな。


「これでどうするんだ?」

「既にヒュドラ型高軌道ゴーレムΣシグマはカイン様の制御下に入っております。合体コンバインと命じて下さい」


「コンバイン」


 そう命令すると、倉庫の前方に3つ左右に2つの穴が開き、前方の穴にそれそれ首を突っ込み、左右の穴には羽を挿入した。


「この状態であれば、カイン様がブリッジからコントロールクリスタルに触れながら指示を出される事で、推進力と各種属性攻撃を行えます。各首が自動照準で攻撃を行いますので、対象物を思い浮かべながら発射ファイアと唱えるだけで、攻撃を行います。属性指定をしたい場合は、ファイアの前に属性を指定してください」


「凄そうではあるけど…… 船の舳先からヒュドラの首が出た船なんて、恐ろしくてたまらんな。見えないようには出来ないのか?」

「出来ません」


「ただし、船体全部なら不可視インビジブルと指示を出せば、見えなくなります」

「すげぇな。俺しか操縦できないのか?」


「いえ。カイン様が許可を与えた人物であれば、操作可能です」


「僕がやりたい!」


 勢いよくレオネアが手を挙げた。

 

「やりたいなら別にいいけど落とすなよ?」

「いいんだ? 断られると思ったよ」


「まぁ操縦できる人間は多い方が良いしな。アルファ。操縦は何か能力が必要だったりするのか?」

「お答えします。パイロットの魔力をコントロールクリスタルから引き出して稼働しますので、余り魔力の少ない方では無理です」


「少ないってどれくらいだ?」


 そう言うと、アルファがここにいるメンバーに対して手を翳した。


「お答えします。浮上だけであれば全員可能。Σに指示を出すので在れば、チュール様。ジュウベエ様。フィル様では無理です」

「そうなんだ……」


「えっ? フィルさんって聖女並みの魔法を使えるんでしょ? それなのに何故」

「私魔力は元々少ないんです…… カインお兄ちゃんのお握り食べながらなら、高威力の魔法も使えますけど。そうじゃ無かったら全然普通以下なんですよ」


「へぇ。カインってまだ色々秘密が有るみたいだね」

「まぁそれはいい。レオネアとナディアは俺と一緒に操作方法を覚えよう何人か操縦できたほうが便利そうだしな」


「やったー」

「かしこまりました」


「カインさん。私の馬車をこの船に載せて貰っても構いませんか?」

「いいよ。メーガン。それじゃ馬車を乗せたら早速試運転だな」


 でも……この窓ってどうなってるんだろ?

 外からはどう見ても木造なのにな……


「お答えします」

「わっ。俺今声出して無いよな?」


「私達はこの船のメイドですので、カイン様の考えられることはなんとなくわかるのです」

「何それコワインデスケド……」


「客室部分の壁は、特殊な錬金術で作られた透明オリハルコンで製造されております。外部は常に隠蔽が掛かり方舟にしか見えません」

「そうなんだ。無駄に技術力高いよな」


 ブリッジに集まると、まずナディアとレオネアの二人に、パイロット権限を設定した。


 アルファに操縦方法を教わりながら、【浮上サーフェス】と命じると、静かにまっすぐ上昇した。


「うはぁ。本当に浮かぶんだなこんなでかい物が」

「反重力石が搭載してありますので、高低の調整だけは、そこに魔力を流すだけで可能です」


「で? どうやって飛ばすんだ?」

「Σが合体してある状態ですと、パイロットのイメージで飛行が可能です」


 俺が前に進む事をイメージするとΣが翼を大きく羽ばたかせ、ゆっくりと前進を始めた。


「どれくらいまでスピードが出る?」

「パイロットの流す魔力次第ですので、カイン様ですとかなりの速度まで出せると思います。後は操縦しながら感覚を掴めばよろしいかと」


「解った」


 それから、日が暮れるまでレオネアとナディアと交代しながら試運転を行った。

 速度は、俺、レオネア、ナディアの順に最高速度が違うようだが、馬車で一週間はかかる王国の横断を、ナディアですら三時間程で横断出来る事が解った。


「これは凄いな。アケボノまで行っても一日かかりそうも無いな」

「アケボノに何か用か?」とジュウベエが聞いて来た。


「ああ。アケボノの会席料理を食べに行こうって言う話を、フィル達としてたんだよ」

「そうか、それなら俺が案内しようじゃないか。昔から懇意にしてる良い店を知ってるぞ」


「マジか! それじゃ早速行こうぜ」


 ジュウベエの提案により俺達の次の目的地はアケボノへと決まった。


「アルファ。ちょっといいか?」

「どうなさいましたか?」


「あのヒュドラ。Σだっけ。なんで合体方式なんだ? 最初から一体型で作ればいいと思うんだが?」

「ヒュドラ型高軌道ゴレムはタイプが他にもありますし、直近24時間内の稼働は8時間が限界です。8時間以上使用するとパフォーマンスが著しく下がりますので、必ずコンバインを解いた状態で休息させて下さい」


「そうなんだ。爺ちゃんずっと本読んでるけど、その辺りは間違いないの?」

「ふむ。わしもずっとベータとガンマから話を聞いておるが、今の所この魔導書の内容と差異は見つけられんな」


「そっち方面は、俺は全然だから頼むよ」

「任せい。わしは絶対記憶を持っておるからな」


「ボケが始まりそうだけどね!」

「レオネア!」


「アルファ。この船だが停泊させる場所で困るんだけど、いい場所は無いか?」

「反重力石は空中で静止する状態では一切の魔力を必要としないので、空中で待機するか、海の上なら普通に船として浮くので、困らないと思います」


「そっか。陸地に停めようと思うから、困るだけなんだな」


 Σの稼働時間もそろそろ限界に近くなる事から、この日はコンバインを解除して、上空で休息をとる事にした。

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