第55話 方舟Ω

 方舟の中に入って行った一行は。その広さに目を見張る事になった。


「どういう事だ? これは」

「この船自体が空間拡張を施された魔導具になっている様じゃな」


 内部は広大な倉庫と言った装いだった。


「ちょっと待っておれ。迂闊にその辺りの物を触るでないぞ?」


 シュタットガルドの言葉に一同頷き、大人しくしてる。

 魔導書の一巻が、この箱舟自体の説明書になっている様で読み解いていく。


「この船は内部が二階建てになっている様じゃな。このフロアは倉庫じゃな。中央部分に階段がある筈じゃ。それを上がると生活空間になっている筈じゃ」


 取り敢えず全員で二階の生活空間とされている場所に上って行く。


「「「お帰りなさいませ旦那様!」」」


「な、なんだ? 一体」


 そこにはメイドの格好をした、三人の少女が立っていた。


「私達は、この船の専属メイドでございます、自己学習型魔石知能搭載の『キャフェテリアゴーレム』αアルファβベータγガンマと申します入口で魔力を登録された、あなた様をご主人様と認め、お仕え致します」


 いきなりの展開に頭が付いて行かないが……

 今まで魔法の鞄の中に入っていたんだし、生物でないことは間違いないのだろう。


 階段を上がったすぐの場所は、リビングと言うより、カフェテリアになっていて、外から見たらどう見ても窓のない木造の船だったものが、このフロアでは、壁全面がガラス窓の様になっていて、とても明るい。


「それでアルファだっけ? この中の設備の案内は出来るのか?」

「当然でございます。ご主人様。それではこの方舟Ωオメガのツアープログラムを開始させて頂きますが、お客様方もいらっしゃるようですし、Ω自慢の美味しいお茶をお楽しみになりませんか?」


「爺さん…… このメイドたちの事は書いてあるのか?」

「起動すれば、ナビゲートシステムが作動すると書いてはあったが、メイドとは書かれておらなんだな」


「って事は、その魔導書は無理に読まなくても大丈夫と言う事か?」

「そうかもしれんが、一応解読を進めながら、メイドに確認を取って行きたいのう。決めたぞカイン。わしをこの船に住まわせろ。当面すべての魔導書を読破し、この船の中身と照合が終わるまでじゃ」


「ええ? ここに住むのか? 人が居たら魔法の鞄に収納も出来ねぇから不便な気がするが……」


「カイン。俺もすげぇこの船に興味がある。しばらく世話になる」

「僕も頼むね」

「私も、長い人生の中でこんなにワクワクするのは初めてですので、お願いいたします」


「Sランクが全員ここに住むって、ギルドとかそれで構わないのか?」

「ギルドはわしらがどこに住もうが強制する力なぞ持っておらぬよ。用事があれば魔導通話機で連絡してくるじゃろうしの」


 俺は、この連中の言う事だけを聞いて決めても駄目な気がしたので、フィルやチュール達にも相談をする事にした。


「カインお兄ちゃん。その前に確認したい事が……」

「ギースとミルキーか?」


「うん……」

「遺跡の中では、もう誰も見付けられなかった。冷静に判断するとマグマの池の中に放り出されたと考えるべきなんだがな……」


「そう…… でもおかしいの。ハルクの事を聞いた時は、聞いた瞬間に本当にお別れなんだって思って凄く悲しくなったのに…… 今ギースとミルキーの事を聞いても何かの冗談の様にしかい聞こえないんだよね。悲しくならないって言ったら嘘になるけど、どこかで生きてるような気がするの」

「フィルもか…… 俺もそんな気がするんだよな。そしてなんか又面倒な事言いだして、俺達でけつ拭きに行かないと駄目な気がする」


「キチャないよ。表現が」


 そう言ったフィルの顔は少し笑顔が戻っていた。


「チュールとフィルはどうだ?」


「私はカインが決めたならそれでいい」

「私もカイン様の思う様に行動なさればいいと思います」


「でも、カインお兄ちゃん。このメイドゴーレムって…… どう見ても人間にしか見えないよね。しかも胸だけ大きな少女型とか、作った人の趣味なのかな?」


「お答えします。私達の形態は、新しいオーナーが登録された時に、オーナーの性癖、思考を読み取って一番好みに適した形態に変更いたします」


「ふーん…… カインお兄ちゃんはロリ巨乳じゃないと駄目なの? フィルはもう24歳だからおばさん扱いなの?」

「ちがっ。アルファ何言ってるんだ。俺は落ち着いた女性の方が好みだ」


「カイン。私はタイプじゃ無いんだ……」

「チュール! タイプとかそう言う話じゃ無くてだな……」


「私は、カイン様に受け入れて頂けるのであれば、カイン様の性癖など一切気に致しません」

「ナディア…… ええ娘やなぁ」


「ナディア。あざとい」

「そんな事ございません」


 場がカオスになったので逃げる様に、アルファの案内に従って、船内の探索に出発した。


 この二階の内部は、中央部分がカフェテリアで、前部とと後部には個室が用意してある。部屋の数は20部屋もあり、中はそれぞれがベッドルームと応接室に分かれている。


 調度品なども洗練されていて、王都の高級宿屋よりも綺麗だ。

 カフェテリア部分には、広いカウンターキッチンも備わっていて、それこそ200名程度のパーティでも対応できるような、機能的な作りだ。


「こいつは嬉しいな! どんな料理でも思いのままに作れるぜ」

「カイン。料理一杯作ってくれる?」


「おう。任せろチュール」

「私も嬉しい!」


 前方に中二階の様な場所があってそこがブリッジとして機能するそうだ。

「アルファ? この船を動かす事は出来るのか?」

「お答えします。現時点では、登録者であるカイン様のみが、浮かせる事が出来ますが、ただ上空に浮くだけで推進装置がございません」


「推進装置って?」

「ああ。それはわしは何となく解るぞ、ヒュドラじゃな?」


「その通りですご老人」

「ご老人って呼ぶでない。シュタットガルドじゃ」


「出来れば、この船を常時利用なさる方は、ブリッジで魔力を登録して頂きたいのですが」


「おう。解った。そういう事だからみんなブリッジに行って魔力を登録してくれ」


「アルファ。登録したら何が変わるんだ?」

「この船への出入りが自由になるのと、私達メイドゴレムに対して指示を出せる様になります。その指示は優先順位が指定できますので、後程カイン様が設定なさって下さい」


「だそうだ。フィル。チュール。ナディア。ケラ。その他でいいな?」

「俺達はその他かよ……」


「だってジュウベエ達はずっと居る訳じゃねぇだろ?」

「場合によっては居ても良いぞ」


「だが断る」

「ひでぇな」


「ヒュドラはどうやってセットするんだ?」

「一階へおいで下さい」


 その言葉に従い、みんなで一階へと向かった。

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