第47話 メーガンとの邂逅
教会へ入り、受付で「女神様に祈りを捧げさせてください」と頼み、寄付を渡した。
俺と宗教ってあまり結びつかないイメージかも知れないが、カール村では司教様やシスターに育てられたんだから、当然朝晩のお祈りはしてたんだぞ?
フィルだって聖魔法の優秀な使い手だから、女神様への祈りは欠かさず捧げている。
もっと言えば、ぶっちゃけその辺の聖女様よりよっぽど優れた聖魔法の使い手だ。
俺はフィルと共にハルクとリンダの冥福を祈った。
「カインお兄ちゃん。ハルクはね、ちゃんとお兄ちゃんの事を認めてたんだよ」
「そっか……」
10分ほどの時間をフィルと二人で祈りを捧げていると、教会の周りが騒がしくなっている事に気付いた。
(何かあったのかな?)
そう思いながら礼拝堂から外に出た。
チュールとナディアが待っていたので、聞いて見ると裏の教会の治療院が騒がしくなってるとの事だった。
俺達が祈りを捧げに行った時に受付で寄付を受け取ったシスターが居たので、話し掛ける。
「何かあったんですか?」
「街の側の畑でオークの集団が現れて、作業をしていた人を襲ったんです」
俺達もシスターの後を付いて、治療院に向かうと10人程の男性がその場で治療を受けていたが、明らかに危険な状態の人も多くいる。
「私もお手伝いします。聖魔法は使えますので」
フィルがそう言って、【エリアヒール】と唱えた。
周りが騒然とする。
「えっ。あれだけの人数の怪我が一瞬で……」
「まだ表面上の怪我を治療しただけです。重傷者は個別に治療して行かなければ、後遺症が残ったりしますので、症状別に並べて下さい」
フィルが治療院の人に声を掛けて、処置をする。
「はい。ありがとうございます。『みんなこの方の指示通りに動いて』」
ここはフィルに任せておけば大丈夫だ。
比較的軽傷で意識がはっきりしている人に尋ねる。
「オークの数はどれ位で他に被害者は?」
「お、オークは恐らく30頭以上は居た。群れを統べるリーダーみたいなのも何頭か居たんだ。それよりも女達がオークに攫われて連れて行かれてる……」
「なんだと。チュール。ナディア。俺と一緒にすぐに向かうぞ」
「はい!」
そう指示を出していると「冒険者さん。ギルドには既に連絡が入っていて、ギルドから腕利きが向かっています」と言われた。
「そうか。一応危険が無いか見に行く。俺もちょっとした回復なら使えるから、攫われた人たちを助け出すのに便利が良いだろう」
「はい。よろしくお願いします」
俺はこの場はフィルに任せて、回復した男性に道案内をしてもらながら、急ぎオークに襲われた農場地帯に向かった。
「何人くらいが攫われたか解るか?」
「あの農場で作業をしていたのが全部で20名程で、教会まで運ぶまでもなく、殺されたのが5人程でした。攫われたのは若い女性ばかりで5名程です……」
「オークはよく現れるのか?」
「いえ、この辺りはゴブリンやスライム程度なら現れてましたが、オーク、それもあんな数の魔物が現れるなんて、初めての事です」
「急ごう」
農場が見えてきたが、そこには殺された人たちがまだ取り残されたままだった。
足跡が農場から見える、森の方へと続いている。
人間の足跡も結構あるので、既に冒険者ギルドから派遣された冒険者が追跡を始めているのだろう。
この場にある死体を、俺達を案内してくれた男とチュールに任せて、俺はナディアと二人で、足跡を追う。
15分程追いかけた所で、冒険者の一団を発見した。
「オーク達はもう倒したのか?」
「誰だ? お前は」
「ああ。突然済まない。王国から来た冒険者でカインと言う。Bランクだ」
「助っ人かい? そいつは助かるが、こっちにはメーガン様がいらっしゃるから出番はないと思うぞ」
「メーガン様?」
「知らないのか?」
「ああ」
「今は見ておけばいい、事が終われば話してやるよ」
その男達が取り囲んでいたのは、オーク集落のようだった。
見える範囲に50頭程のオークが居るが、連れ去られたと言う女性の姿は無い。
「あの…… メーガン様ってエルフのメーガン様で間違いないのでしょうか?」
「お、お姉ちゃんは知ってるのか。って言うかお姉ちゃんもエルフさんか」
「はい」
「おい、ナディア。メーガンって誰なんだ?」
「カイン様。メーガン様はSランク冒険者のエルフです。【神の使徒】と呼ばれる特殊能力を身につけています」
「そうか、それなら心配はなさそうだが、問題はオークを倒す事よりも、攫われた女性を救出する方が優先だって、みんな分かってるのか?」
「なんだ? 女性が攫われてるのか? 俺達は殲滅しか聞いてなかったぞ」
「やばいな、今攻撃したら女性たちが殺される可能性が高い、ナディア、メーガンの所に走れ。攻撃を止めさせるんだ」
「はい」
ナディアが一人で踏み込むとしていた、メーガンの元に駆け寄ると事情を説明した。
すると、メーガンがこちらに戻って来た。
「誰か、斥候索敵能力に優れた者は居ますか? 私は殲滅しか術がないので。急ぎ後ろに見えてる洞窟の中に潜入して攫われた人たちの状況を見て欲しいのですが」
その言葉にここの冒険者は誰も反応しなかった。
見えてるだけで50頭以上、内部にどれだけいるのか解らない情況で、手を上げるのは、自殺行為に近いからしょうがないな。
「俺と、ナディアで受け持とう」
一番後ろから手を上げ、探索を買って出た。
「出来るのですか?」
「ああ。大丈夫だと思う。捕まってる人たちを確認して、出来れば助け出してくる。それと同時に殲滅を頼んでいいか?
「ずいぶん自信がありそうですね。お名前は?」
「カイン。料理人だ」
「斥候職でも無く、サポートの料理人だって言うのですか? 本当に大丈夫なんでしょうか?」
「心配なら、余り言いたくないが『ドラゴンブレス』のサポートと斥候をやっていたと言えば信じるか?」
「Sランクダンジョン踏破のドラゴンブレスですか?」
「他にもあるのか? ドラゴンブレスって?」
「本物のようですね。済みませんがお願いします」
「よし。ナディアは洞窟の入口に精霊を出して俺の合図が出たら、メーガンに伝えるのが役目だ」
「はい」
俺は隠密の魔導具を発動して、素早く洞窟に突入して行った。
「オッドアイですか。ナディアと言いましたね。あなたはあの男とどういう関係なのですか」
「カイン様は、私のご主人様です」
「ナディアは奴隷にはされて無いわよね? 信用できるのですか? あの男は」
「はい、私を金貨6000枚でオークションで競り落とし、街から出るとすぐに奴隷から解放するようなお方ですから」
「へぇ。興味深いわね。実力はどう?」
「とても美味しい料理を作られます」
「あー…… 料理人だったね」
「でも大丈夫です。きっと……」
「貴女が言うなら、信じましょう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます