第46話 サンクト聖教国
俺達はブラインシュタットの街を出立して、サンクト聖教国との国境検問所に到着した。
それぞれが、冒険者証を衛兵へと見せる。
こちら側の検問所は王国の衛兵、反対側には聖教国の衛兵が立っており、服装も違い、国が違う事を感じさせる場所だった。
俺がブラインシュタットで更新して貰ったBランクの冒険者証を提出すると、他の三人は呼び止められなかったのに、俺だけが衛兵の待機所に招き入れられた。
(なんかヤバいことしたっけ? ここで騒ぎ起こしちゃダメだよな?)
と思いながら、付いて行く。
「呼び止めてしまって申し訳ありません。カインさん」
「何の用でしょうか?」
「ブラインシュタット冒険者ギルドのゴアマスターから、お預かりした物がございますので、お呼びしました」
そこには小さな箱に入れられた物が、用意してあった。
「何でしょうかこれは?」
「中身は解りません、手紙が同梱してあるとの事ですので、ご自身でご確認ください。それともう一点。王国外では冒険者カードをスキャンした場合でも、隠蔽のランクは解かる事がございません。あくまでも表面上のBランク冒険者としての扱いになりますので、ご注意下さい」
「それは、逆に助かるよ」
「それでは、皆さん冒険者証の確認も終わったようですので、お気をつけてお出かけください」
「ああ。ありがとう」
こうして、ゴアマスターから預けられたと言う荷物を受け取った俺は、国境を越えてサンクト聖教国へと入った。
「ナディア。ユグトゥイグの示す方向に変わりないか?」
「はい。カイン様。若干西側に寄っているようですが、大きな動きでは無いかと思います」
「よし、この国で別に目的は無いから、まっすぐに世界樹を目指そう。途中で街があれば立ち寄る程度で構わないな?」
「「「はい」」」
フィルはケラの背中に乗り、俺達は徒歩で移動している。
「馬車があった方が良いのかな?」
俺がみんなに聞いてみたが「馬車はいざという時に、馬が邪魔になる事がありますから、今の所は必要ないですね」
と、ナディアに言われた。
確かに、馬車自体は魔法の鞄に収納可能だが、馬は収納できないので、戦闘時に邪魔になるかもな? と思ったが、ここで一つ思いついた事があった。
古代遺跡のゴーレムは魔法の鞄に収納できたんだから、馬型のゴーレムとか作れれば、馬も収納できるかもしれないな。
素材だけは、大量にあるしな。
しかし、ゴーレムってフィールドや古代遺跡では、そのまま魔法の鞄に収納できたけど、ダンジョンではコアを抜くまで収納できないのって、何か理由があるのかな?
魔法の鞄のルールからすると、ダンジョンのゴーレムは生き物だと認識されてるって事か……
「カインお兄ちゃん。さっき検問所で預かった荷物って何なの?」
「ああ、まだ中身は見て無かったな。次の街で休憩する時に確認しよう」
聖教国の中に入ると町々には必ず背の高い教会が存在するので、結構遠くからでも次の街までの目安が付きやすい。
流石に村クラスだと背の高い教会は無いけど、それでも礼拝堂くらいの建物は建っている。
宗教が生活の中核として根付いてる様子が見て取れるな。
フィルが宗教国についてある程度事前に調べてくれたけど、この国には貴族制度は無い。
政治を行うのも女神聖教の司教たちであり、税の徴収や公共事業も教会の主導で行われる。
各地の代官は教会の司教も兼任していて、これは世襲制度では無く中央教会から派遣される公僕で、定期的に移動もある。
余程辺鄙な場所で、希望する者が少ないような土地でもない限りは、3年も経てば次の場所へと移動するそうだ。
このために、他の貴族制度のある国に比べると、貧富の差も少なく安定した国とも言える。
国同士の外交関係においては、宗派が王国と同じであり、王国とは比較的仲が良いが、帝国とは殆ど外交的な関わりがないそうだ。
帝国と聖教国の間に位置する、通商連合国は宗教には積極的では無い為に、逆にどちらとも上手くやっていると言う感じだそうだ。
「フィルくらいの聖魔法の使い手だったら、この国に来たら聖女様扱いされそうだよな」
「聖女様なんて堅苦しくてやってられないよ。私は冒険者としてカインお兄ちゃんの横に居続ける事が一番幸せだって、良く解ったから」
「まぁフィルがそうしたいなら、別に構わないけどな」
「チュール。獣人の国はどう言う感じなんだ?」
「えーとね。種族ごとに集落があって、その種族の族長が集まって合議制で色々決めるんだけど……」
「どうしてそこで止まる?」
「結局自分達の都合のいい事しか言わないから、殆ど会議では何も決まらないから、種族の代表の戦士が集まって戦いで決める感じなの」
「それはまた凄いな。その戦いは戦争とは違うのかい?」
「うん。代表の選手団がちゃんと中央の闘技場で試合をする感じだよ。お金も賭けられてて、凄い盛り上がるんだよね。でも強い種族は偏っちゃうから、助っ人を雇ったりとかも出来るし、結局はただ戦いたいだけみたいな感じなのかも」
「獣人族の特性って事だろうな」
教会の塔が見えて来て、次の街に到着した。
まだ、日は高いのでこの街では少し休憩したら、先を目指す事になる。
「カインお兄ちゃん。検問所で貰ったのって何が入ってたの?」
「ああ。開けてみるな…… えーと。これは魔導具かな? 手紙が一緒に入ってるから、読んでみる」
その箱の中に入っていたのは、王都のギルマスから送りつけて来た遠話の魔導具と呼ばれる物だった。
同じ魔導具を持つ者同士でお互いの遠話器を登録しておけば、会話が出来ると言う道具だそうだ。
手紙に書いてあったのは、この魔導具を手にしたら、まず王都に連絡を入れてくれと言う事だった。
「王都のギルドマスターと連絡が取れる魔導具らしい。連絡入れてくれと書いてあるが、面倒が起る予感しかしないな。どうしたもんだろ……」
「カインお兄ちゃん。ギルノア・ヴィンセント卿はお兄ちゃんの味方だと思うよ? 連絡はした方が良いと思うな」
「そっか。フィルがそう言うなら、連絡してみるよ」
俺が遠話の魔導具に刻んである魔法陣に魔力を込めると、通話先リストが浮かび上がった。
現時点では、ギルノア・ヴィンセントの名前だけが浮かび上がる。
その名前を、指で触れると呼び出し音の様な物が流れた。
『やっと連絡をしてきたかカイン』
『久しぶりだなギルマス』
『今はどこにおる?』
『あー、聖教国に入って最初の街だな。クレメンスと言ってたな』
『そうか、ちゃんとグリード王国に戻って来るんだろうな?』
『ああ、用事が住んだら戻る予定では居るよ。そう言えばギルマスに、文句があるんだけどな?』
『なんだ? ランクの事か?』
『ああ。Sランクって何なんだよ』
『お前の正しい実力の評価だ。この国だけじゃ無くこの世界を脅かすような事態が起きた時に本当に必要なのは、お前の力だと俺は思っているから、そのランクを背負ってもらう。それだけだ』
『あのなぁ。俺はただの料理人で村へ戻って、食堂を開店するだけが目標だったんだぞ』
『それは自由にすればいいさ。だが本当にお前の力が必要な時は、力を貸してくれ』
『勝手だよな。普段は自由で良いんだな?』
『ああ、それは約束しよう』
『しょうがねえな』
『カイン。今はフィルも一緒に居るんだよな?』
『ああ。一緒だ』
『そうか。お前らに伝えなきゃいけない事がある。ハルクが死んだ』
『なんだって? どうしてそんな事になったんだ』
『Bランクダンジョン『悪霊の巣』にハルクをリーダーとした15名で探索中に、50層に現れたミスリルゴーレムによりやられたそうだ。パーティメンバー15名を一人で守り抜き、サポート部隊のリンダだけが、ハルクを助けるために一緒に死んだそうだ』
『そうか。仲間を守るための犠牲だったのか』
『ああそうだ。『ドラゴンブレス』はギースとミルキーが帰って来るまでは、活動を中止するそうだ』
『そうか。解った。情報をありがとう。墓は作ったのか?』
『ああ。クランの連中が立派な墓を用意すると言ってたが、今はギースがカール村の領主代行で遠征中だから、正式には戻って来てからになるそうだ』
『そっか……』
通話を終了して、フィルに伝えると、フィルが目に涙をためて、俺の胸に顔をうずめた。
「カイン。またフィルを泣かせた?」
「違う。仲間が死んだ」
「カインをクビにした仲間? それは仲間じゃないと思う」
「チュール。それでも俺に取って、あいつらは兄弟同然の仲間なんだ。長く一緒に居れば喧嘩の一つや二つは、どんなに仲の良い夫婦や兄弟だってするだろ?」
「うん。そうだね。ゴメン」
「どうするの? 戻る?」
「いや。今は先に世界樹へ向かう。まだ戻っても墓も無いみたいだし」
「そっか……」
「ちょっとだけこの街の教会へ立ち寄らせてくれ。天国へ行けるように祈ってやりたい」
みんなで、この街に立つ教会へと向かった。
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