第45話 ドラゴンブレス⑦

(ハルク)


 Bランクダンジョン『悪霊の巣』の探索を始めて、既に2週間が経過した。

 現在の到達階層は40層。

 最終60層まであるこのダンジョンを、後一週間で攻略する事は、すでに実質不可能な段階になった。


 他の2パーティのリーダーとサポートメンバー3人を呼んでミーティングを行う。


「現状の進行具合だと、これ以上問題が起らなくても、後二週間は要するが、食料その他消耗品はどうだ?」


「はい。前回の反省を含めて、予備の黒パンや干し肉は持って来ていますので、日に二食を保存食に切り替えれば、大丈夫です。ポーション類は進行速度に余裕を持ってもらえれば、大丈夫かと。基本緊急以外は回復は、回復魔法で行いたい所ですが、敵が悪魔とアンデット中心ですから、聖魔法が攻撃の要でもある所が厳しいですよね」

「ああ。その通りだが、それはダンジョンに入る前から、解っていた事だ理由にしたくはない」


「そうですね。斥候に一人途中帰還者が出たのも痛いですね」

「そうだな」


「残り二人の斥候職に進行速度は任そう。こちらが焦らせたりすれば、更なる事故にもつながる」

「「「はい」」」


「今日はゆっくりと休んで明日からの探索に備えよう」


 そう指示を出して、早めにテントに入り眠りに就こうとしたが、サポート班のリンダが話し掛けて来た。


「ハルクさん。ちょっとお話をさせて頂いてもいいですか?」

「構わないよリンダ」


「ハルクさんは、このダンジョンは過去に攻略されたんですよね?」

「ああ。クランを作るよりだいぶ前だったけどな」


「その時は当然ワンパーティでの攻略だったんですか?」

「そうだな」


「それも…… 殆ど戦闘も罠も関係なく最終階層まで行かれたんでしょうか?」

「ああ。そうだこのダンジョンは1パーティで一週間で攻略した」


「攻略の決め手はギース様の圧倒的な攻撃力ですか?」

「いや、殆どフィルとミルキーの魔法だったな、俺はタンクに専念して、堅めの敵が現れれば、ギースが突破する程度だったかな」


「ハルクさん。その当時のハルクさん達のレベルと今の私達を比べて、冷静に見てどちらの実力が高いんでしょうか?」

「今だな」


「では、何故。この状態なのでしょうか」

「リンダ。言いたい事も解ってるし、俺は理解できている。カインさんだよ」


「ギースさんやミルキーさんは、それをかたくなに認めようとしませんよね?」

「今やSランククラン『ドラゴンブレス』は表面上、世界最強クランなんだ。それに共なう実績が求められる。こうなれば今の俺達に出来る事は何だ?」


「名声を落とさない事?」

「そうだな。俺は今回の探索が終わればクランを抜ける。みんながこの先どうするかは任せるが、Sランクダンジョンの攻略を花道にして冒険者を引退したと言えるだけ、恵まれてたんじゃないか?」


「そうですね。ハルクさんはクランを抜けたらどうされるんですか?」

「騎士爵なんてのを貰ってるから、出身地は凄い田舎で領主も居ない様な所なんだけど、その場所を発展させながら、冒険者を目指す子供達の育成でもしてやりたいな」


「素敵ですね。私もお手伝させて貰っても良いですか?」

「リンダ…… ああ助かる」


 どうやら、ハルクのセカンドライフは明るい未来がある様に見えた。



 ◇◆◇◆ 



 探索は3週間目を迎え漸く50層の、中ボス戦を迎えていた。


「何故だ、こんな敵が現れるなんて……」

「レアボスですね。しかも対魔法に強い耐性を持つミスリルゴーレムです。今回の探索の装備はみんな魔法特化の装備なのでかなり厳しいです」


「くそっ、俺が攻撃を食い止める、その間に魔法職のメンバーも全員武器装備で、撃破するんだ。もしここを突破した後で俺が指揮不能状態と判断すれば、総員撤退してくれ。いいか、死ぬなよ」

「ハルクさん。私は、そばを離れずサポートを続けます。ポーションの補給を続けていればハルクさんならきっと持ちこたえられますから」


「リンダ。無理はするなよ。危険と思ったら絶対に逃げてくれ」

「フフッ。そんなの無理に決まってるじゃないですか。私はハルクさんの押しかけ女房狙ってるんですから、ここで思いっきり恩を売るんです」


「馬鹿な事を言うんじゃない。みんな頼むぞ!!」


「「「応」」」


 どれだけの時間を、どれだけの攻撃を防ぎ続けただろうか、もうとっくに手足の感覚は麻痺して、何も感じねぇ。

 リンダの手持ちのポーションも使い切った。


 他の二人のサポートメンバーがポーションを俺に使おうとしたが、拒否した。


「馬鹿野郎。お前たちがそのポーションを俺に使えば、帰り道で全滅する危険がある。今使う事は許さん。俺の意識があるうちに、こいつを削りきろ!」


 その時、俺を一際強い攻撃が襲って来た。

 俺が地面に叩きつけられそうになった場所に、リンダが体を盾にして、受け止めた。


 俺のフルプレートアーマーとタワーシールド込みの重量は200㎏近くにもなる。

 リンダの身体の骨が折れ、血を吐く。


「馬鹿。なんでそんな行動をしたんだ」

「今…… ハ… ルク…… さんが倒れたら、全滅ですから…… 私はみんなを守る事は…… 出来… ま せんが…… ハルクさんは…… 絶対に守りたいんです……」


 そんな状況になっても、ミスリルゴーレムの攻撃は止まらない。

 次のミスリルゴーレムの攻撃をまともに食らいながらも、何とか抱き着き、動きを阻害した。


 他のメンバーも満身創痍だが、そのチャンスを見逃すほど弱いメンバーではない。


 一斉に倒れたゴーレムとハルクの上に飛びかかり、弱点である関節部分に武器を差し込み、倒す事に成功した。


 50層のボス部屋の扉が開く。


 しかし、ハルクとリンダが、立ち上がる事は無かった。


 4班のリーダーであるサイモンが、指示を出す。


「総員…… 撤退だ……」


 そして、ハルクとリンダの身体は、生き物が入る事は出来ない筈の魔法の鞄に収納された……


 そこから一週間をかけ、全力で戦闘を避けながら、『悪霊の巣』から脱出した。

 食料も、ポーションもほぼ全てを使い果たし、もし、あの時、ハルクに4班と5班のサポーターのポーションまで使っていれば、誰も戻れなかったかもしれない……

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