第48話 S級の実力

 俺は洞窟に潜入すると、内部を素早く確認した。

 入り口の大きさの割に中は広く、内部にはオークの上位種を中心に20体程が居た。


 それよりも、問題は攫われた女性たちだ。

 苗床として攫われただろうから、間に合ったかどうかが微妙だ。


(居た)


 内部には女性が全部で15名程も捕らわれていた。

 他の所も襲われていたのか……


 そこには、このオーク集落のリーダーであろう、ジェネラル種のオークが存在して、絶賛行為に及んでいた。


 遅かったか……


 だが、まだ被害にあっているのは少数の様で、他の女性たちは、衣服も付けた状態で、遠巻きに怯えていた。


 被害を受けた後の女性たちは、衣服も引きちぎられて、放心状態で倒れているから、見分けはつくが……


 ここに他の男性冒険者を、来させるわけには行かないな。

 しょうがねぇ。


 俺がこの中は片付けて、女性冒険者だけで救出をしてもらうか。

 恐らく外のオークはメーガンだけで楽勝な筈だ。


 まず狙うのは、当然ジェネラルだ。

 俺は、捌き包丁を取り出して、隠密を発動したまま近寄ると、一振りでオークジェネラルの頸動脈を断ち切る。


 オークジェネラルは単独でもBランク指定。

 群れのリーダーの場合はAランクの魔物だ。


 普通の冒険者では倒すのは難しいだろうな。

 

 首から血を噴出させながらも、攻撃をしたことで隠密効果の切れた俺に振り向き、襲い掛かって来る。


「みんな壁際に下がってろ。すぐに助は来るから大人しくしてろよ」


 と伝えて、ジェネラルを女性たちから離れた方向へ誘導する。

 血を噴出しながらも、何かを叫ぶと他のオーク達も俺に向かってくる。


 よし、このまま纏めて全部外へ誘導するのが一番いいな。

 

 右手に、捌き包丁を握ったまま、左手にフォークを4本指の間に挟み、ジェネラル以外のオークの目を狙って投擲する。


 4本のフォークは、眼球に突き刺さり足取りが遅くなるが、魔物だけにそれくらいで足は止まらない。


 それを繰り返し、ナイフとフォークを全部使い切った頃に漸く、洞窟の入口に内部のすべてのオークを誘導する事に成功する。


 入り口に待機していた、ナディアの風精霊に伝える。

「女性冒険者だけで、洞窟内の救出班を作って突入してくれ、今洞窟前に居るオークで敵は全てだから、メーガンに殲滅を頼むと伝えろ」


 風精霊はナディアと念話のような感じで、話が出来る様ですぐにメーガンが洞窟前の広場に飛び出して来た。


 他の冒険者たちは、うち漏らしたオークが逃げ出さない様にオーク集落を囲んでいる。


 オークは総勢で80体程だろうか一斉に、俺を無視してメーガンに向かう。

 どんだけ女好きなんだよ……


 そして、俺の指示により3名程居た、女性冒険者とナディアが洞窟入り口に来た。

「内部に居るのは女性ばかりで15名程だ。殆どは自力で動けると思うが、3名程被害を受けた女性が居るので、服の予備などあったら貸してあげて欲しい。男性は行くべきじゃないと思うから、後は頼む」


「「「解りました」」」


 そして俺は、メーガンの姿を確認した。


(なんだあれは)


 そこには白銀の輝きを放ちながら、背中から3対6枚の羽根を生やしたメーガンがゆっくりとその羽で上昇しながら、オークを見下ろす姿を見た。


「邪なるものよ。悔い改めよ」


 そう言霊を発すると、メーガンの翼から大量の羽根がオーク達を襲った。

 一瞬だった。


(すげぇな。これが本物のSランクか)


 周りの冒険者たちに、素材回収の指示を出すと、メーガンは俺の方に近づいて来た。


「ドラゴンブレスの実力を私は全く信用していませんでしたけど、私が間違ってた様ですね。カイン。助かったわ」

「いや。俺はドラゴンブレスはとっくにクビになったよ。使い物にならないらしくてね」


「本当ですか? あなたの様な実力があってもドラゴンブレスの中では、役に立たないと言われるレベルなのですか? 一体ドラゴンブレスの【勇者】ギースとは、どれだけの実力があると言うの?」

「さぁな。自分の目で判断したらいいんじゃないか? 呼ばれてるんじゃないのか? 惨劇の平原に」


「何故それを?」

「偶然耳にしてな」


 その時、俺が首からぶら下げていた、魔導通話機に目を止めた。


「あら? あなた、何故魔導通話機を? 個人では基本手に入る様なもんじゃ無い筈よ?」

「あ、これか? なんか良く解んないんだが、王都のギルマスに無理やり持たされただけだ。


「そうなの? 良かったら私の通話機を登録してくれないかしら。腕の立つ斥候が必要な時に力を借りたいから」

「Sランク冒険者なら、もっと凄い仲間が居るんじゃねぇのかよ?」


「私達は、基本みんなソロでしか動かないわ。仲間が居ると巻き込んで殺しちゃいそうだし」

「そいつはおっかねぇな。俺を殺すなよ?」


「カインなら避けてくれそうな気がするからね」

「どうだろな」


 俺は、メーガンと魔導通話機のお互いの登録をした。

 冒険者たちが、オークの素材回収をしてるが、気になったから聞いてみた。


「お前らってさ、魔法の鞄持って無いのか?」


「そんな高いもの買えるなら、冒険者なんかしないで、商人でもやるよ」

「俺は持ってるが、オークなんて一体丸ごと入れられるような魔力が無いから解体しなきゃ無理なんだよ」


 そんなもんなんだな普通って……


「メーガンは、オーク持って帰らないのか?」

「そう言えば、ナディアが言ってたけど、腕のいい料理人なんでしょ? ジェネラル持って帰って私に何か作ってよ」


「OK、料理なら何でも作るぜ。俺もオークジェネラルはちょっと食ってみたいと思ってた」


 女性冒険者によって、攫われた女性たちは助け出され、馬車に乗せられた。

 しかし、ジェネラルに襲われた女性がこの先、生き延びれる可能性は低いだろう。


 ほぼ100%の確率で妊娠するし、生まれてくる子供はオークだ。

 早めの堕胎手術を行うしか母体が生き延びれる可能性は低い。


 例えそれで堕胎に成功したとしても、精神的なショックから立ち直れる可能性は極めて低い。


 魔物が住まう世界は不条理な世界なのだ。


 俺は女性たちの乗った馬車に行き、生活魔法の【治療】を使い、女性たちの怪我を治しながら、教会へと戻った。


 途中で農村にも寄り、オークに殺された人たちの死体も回収する。


「チュール、何も問題は起こらなかったか?」

「うん。大丈夫」


「今日は、オークジェネラルでご馳走作るからな」

「楽しみ!」


「あ、そう言えばキッチンは何処か借りれるのか? メーガン」

「私は、この国の中には各街へ別荘を持ってるの。そこでどうかしら?」


「S級冒険者は金持ちなんだな」

「それなりにね!」


「カイン。また女の人増やした?」

「またって何だ。人聞き悪いな。それにきっと俺達から見ると、ご先祖様達よりも年上の人だ」


「カイン? 女性の歳の事を言うのは失礼ですよ?」

「悪いな。メーガン」


「まぁいいわ」


 教会に戻ると、運び込まれた人たちの治療は、フィルが大体終わらせてくれていた。


「カインお兄ちゃん。お帰り。おにぎり頂戴。もうフラフラだよ」

「頑張ったなフィル」


 そう言いながら、フィルにおにぎりを食べさせていると、教会の司教やシスター、それに助けられた人たちが、お礼を言って来た。


「フィル様。ありがとうございました。フィル様さえよろしければ、聖女様の称号を聖教会の本部に申請させて頂きたいのですが……」

「あー。そう言うのは必要ないんで勘弁してください。私はカインお兄ちゃんのお嫁さんになる事しか考えて無いですから!」


「カイン君モテモテなんだね。ここの状況も落ち着いたみたいだし、そろそろカイン君の作る料理を食べさせて欲しいわね」


「よし。行こうか!」

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