第38話 名物料理を作ろう③
俺はナディアとチュール、それに旅館の娘ミーチェを連れて、冒険者ギルドへと向かった。
受付嬢に窓口で質問した。
「すいません。この辺りで常時狩れる魔物で、食味も良くてギルドでも安定して購入できるのは、何がお薦めですか?」
「随分条件が多いわね。そうですね。それならお薦めは
「ゴートカウか。山羊と牛の特徴を持った魔物で、肉質の柔らかいCランクの魔物だったかな?」
「良く知ってらっしゃいますね。放牧地帯の奥に行くと結構遭遇があるみたいです。他の草食動物に対して攻撃する習性があるので、おこぼれを狙うウルフ系の魔物が一緒に行動してて結構困ってるんです」
「そっか。買取価格はどれくらいなんだ?」
「討伐証明の角の納品だけで銀貨二枚、素材納品は丸ごとですと、大きさと状態で変動はありますが、大体金貨三枚平均での引き取りですね」
「結構高いんだな」
「一頭が1トンを超えるので、丸ごと納品できる人は少ないですから……」
「なる程な、常時依頼って事は狩って来て納品したらいいんだよな?」
「はい。そうですね」
「解った。ありがとう」
そう伝えると、街を出て放牧地帯の奥にある山を目指した。
「カイン。ゴートカウって強いの?」
「ああ、単体ではオークと同程度のDランクの強さしか無いんだけどな。ウルフの群れが一緒に行動してる事が多いんだ。だからCランク指定だな」
「そうなんだね」
「ウルフは範囲魔法が使えるナディアに頼むな」
「解りました」
「チュールはミーチェと二人で、倒したウルフの素材剥ぎ取りを中心に頼む」
「うん」
「俺は、ゴートカウを倒して、解体して料理の試作用の素材を集める」
狩りを始めると……
『ファイヤレインアロー』
ナディアが いきなり炎系の範囲魔法で、火の矢を降らせた。
「おいおい、ウルフは皮が売れるから火は止めてくれ。肉はうまくは無いけど干し肉には出来るから、これは全部売ってしまおう。本当は自分で食べないのを殺したくないけど、こいつら始末しないとゴートカウを倒せないからしょうがない」
取り敢えず二頭のゴートカウを仕留めたので、試作分には十分だ。
「ゴートカウってさ……カウなのに雄なんだな!」
そう言いながら、死体を確認してると。
「シュゴイ、オッキイデシュ……」
「おい、エロガキ。魔物の股間で興奮するんじゃねぇ」
チュールとナディアのミーチェを見る目もドン引きだった。
「あ、あの。別に魔物の股間に興味とか無いですから……」
「いいから、早くグレーウルフの素材剥ぎ取りを手伝えよ?」
「ハイ……」
これをミーチェにさせたのは、どの程度の調理技術を持ってるのかを、判断するためだ。
実際に解体をさせて見るのが一番わかるからな。
まぁ、まだ子供だから大きな期待はしてないが、出来るレベルで教える料理も変わるしな。
俺が、ゴートカウを捌き始めると、ミーチェの手が再び止まった。
「す、凄い……」
今度は嚙んでないからエロい事は考えて無いだろう。
「なぁ、風見鶏亭の二人の息子はどの程度の腕前だ? あ、味付けとかは期待してない。捌く技術だ」
「えーと、私よりは上手ですよ?」
「そうか、それなら十分だ」
実際、ウルフを解体しているミーチェは、そんなに下手では無かった。寧ろ解体は上手いと言えるだろう。
「解体は誰に習ったんだ?」
「お父さんが素材は丸ごとで仕入れる人だったから、私達は三人でお父さんと、大倉亭の料理長になった、キンゾウさんに習いました」
「キンゾウって言う料理人の腕は良かったのか?」
「お父さんが殆ど調理場の事は任せてたし、良い職人さんだと思います」
「そうか、じゃぁ負けない様な料理を作らないとな」
俺はゴートカウを解体して、枝肉にその場で分けて行った。
ネック、ロース、ヒレ、モモ、アバラ、ランプ、テイル、スネ。
肉の部位を並べてみる。
食べやすくて美味しいのは、ロースとヒレなのは言うまでもない。
だが、今回主に使うのは、アバラ肉だな。
カルビとも呼ばれるこの部分を骨付き状態で提供するトマホークステーキを今回の目玉商品として、提案する事にした。
昨日、バイキングの食堂で食事に行った時にキッチンカウンターに大きな鉄板があったのを確認していた事もある。
風見鶏亭では、料理の提供方法がビュッフェ形式なので、単価の高いロースやヒレを使うのは、利益率を考えると最良の選択とは言えないからだ。
あばらの部分を除いた他の枝肉は、ギルドに売る為に魔法の鞄に収納する。
後は内蔵系だ。
今回は内蔵も大事だ。
特に小腸、これを丁寧に洗って使う予定だ。
この世界では、内蔵系の肉はとても安く取引されるのでお薦めなんだ。
きちんと処理をすれば、筋肉部分と同じように美味しく食べる事が出来る。
もう一つはタンだな。
舌の部分だが、ここもとても美味しい。
魔物肉は、普通に畜産で育てられる肉に比べると高価なイメージもあるし、実際に同じ部位で比べれば、値段が3倍ほども違うので、客から見た場合も豪勢なイメージを持ってもらえる筈だしな。
早速俺が思いついた料理を、ミーチェ達三人に食べて貰った。
「どうだ? 美味いだろ」
「「「うん」」」
「凄いです、どれも滅茶苦茶美味しいです。見た目も華やかだしこれをビュッフェのメインにするって事ですよね?」
「そうだ。折角叔父さん達が考えた、ビュッフェのシステム自体は尊重して、その中で話題になる程美味しい料理を、調理技術にあまり左右されない形で提供する。これが、今回の大事なポイントだ」
「私、叔父さん達を説得して見ますね」
「それが一番大事だ。本人達がやる気にならないと、考えても無駄になるだけだからな」
繊細な味付けや盛り付けを得意とする、アケボノ料理が得意な料理人に対して、技術も経験も足らない状態で勝負をする風見鶏亭が、同じ分野で挑んでも勝負にならないので、この選択に間違いはないと思う。
よし、準備は完了だな。
この日狩った、魔物をギルドに納品に行くと金貨10枚ほどになった。
「あれ? 聞いてたより買取が高くない?」
「処理が完璧で、状態がとても良いのでこの値段での買取になります。出来れば今後も継続して納品して欲しいですね」
「そうか、この街に居る間は頑張るよ」
そう伝えて、宿へと戻った。
宿に戻ると、フィルも戻って来ていた。
「鎧と剣は売って来たよ。オークションを勧められたけど、商業ギルドに買い取って貰っちゃった。全部で金貨1000枚になったわ。その後でこの地方の特産品とか調べて来たよ」
「ありがとう。いいものは在ったかい?」
「うん。この地域は酪農が中心だから、チーズやバターは良い物が揃ってるわね」
「やっぱりそうか。そっちは朝食で利用できそうだな」
その日の夕食は、宿のおかみさんの用意してくれた、この地方の家庭料理を中心にした献立をいただいた。
素朴だが落ち着く悪くない料理だった。
気取って無い所がいい。
これなら十分に勝負になるな。
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