第36話 名物料理を作ろう①
「無事に終わってよかったね」
「そうだな。チュールの動きにびっくりした」
「いつもカインの動きを見て、練習してるから」
「そっか、偉いな」
そう言って頭をワシャワシャしてやると、猫耳の部分に手が当たって、チュールがビクッとなった。
「そこ…… 駄目……」
「ああ。なんか済まん。弱点なのか耳?」
「二人きりの時ならいい」
「それはまだ当分先だな!」
「それもだけどさ、ナディアも凄かったな、魔法弓一発で終わらせるとか。俺あんな弓を使った魔法の発動、初めて見るけど、あれは職業スキルか?」
「はい、そうです。私の『精霊術師』のスキルで精霊の力を弓で解き放つんです」
「へー精霊術師って強力なんだな」
「でも力を借りる精霊の力に依存しますから、効果が安定しないんです」
「精霊は契約みたいな感じで同じ精霊を呼び出せるわけじゃ無いの?」
「契約をすれば同じ精霊が来てくれますが、同じ属性の精霊とは一人しか契約できないので、高位精霊と出会えたら契約したいですね」
「そうなんだ。旅してる間に出会えたらいいな」
「はい」
「ナディアの精霊魔法の苦手な所とかあるの?」
「はい…… 地形効果などに弱いですね。例えば火山などでは火の精霊は沢山いますが、水や氷の精霊が居る事はほぼ無いので、有効な攻撃手段がありません」
「なるほどなぁ。万能では無いんだね」
「契約出来たら問題は少なくなっていきますけど」
そんな話をしながら今日予約しておいた宿『風見鶏亭』へと戻った。
フロントで鍵を受け取り夕食の事を聞いた。
「1階の食堂でバイキング形式になっています。セルフサービスでお好きなものを取り放題ですね。時間は夜の10時までですが、お早めに行かれる事をお勧めします」
と言われた。
「お風呂はどうなってますか?」
「お風呂も一階に大浴場がございます、川に面していますから、とても眺めがいいんですよ」
「それって外から覗けたりしませんか?」
「川の向こう岸は崖になっていますし、植え込みをうまく配置してありますので心配はありませんよ。男性と女性の入口は分かれていますので、そちらで湯着に着替えて入られて下さい」
「解りました」
ちょっと引っかかるものを感じたけど、一度部屋に戻り、先にお風呂に向かう事にした。
「今日も沢山歩いたし、最後の冒険者ギルドでナディアとチュールは戦闘もしたから、汗を流したいだろ?」
「「「うん」」」
部屋に入ると…… 最初の問題が発生した。
確かに4人部屋ではあったけど……
ダブルのベッドが2つだった。
フィルとチュールとナディアの3人が牽制しあう。
「どうぞ好きな方のベッドに行っていいわよ?」
「あー、俺はソファーで寝るから、ベッドは3人で使えばいい」
「「「駄目です! そんなんじゃ疲れが取れません」」」
「まぁそれは後でいいから、先に風呂行くぞ」
結局誰がどちらのベッドかは決まらないまま、大浴場へと向かった。
入り口は男性、女性で別れていた。
「先に上がったら、部屋に戻っておけよ? みんな揃ったら食事に行こう」
「「「はーい」」」
そう言って脱衣場に向かった。
まだ時間が早目なので、他に誰も居ない。
湯着を着用するのだが、男はパンツだけだ。
薄い布だから濡れると張り付いて少し透けるような生地だ。
かけ湯をして、早速風呂につかる。
フロントの女性が言ってた通りに、大きな川があり眺めも良い。
脱衣場の広さに比べて、妙に風呂が広く感じるのは気のせいか?
と、思いながら外の景色を楽しんでいると、人の入ってくる気配を感じた。
視線をやると、そこには……
フィルとナディアとチュールの三人が湯着を着て立っていた……
「何で居るんだ? 男湯だぞここ?」
「えっ? 普通に女湯の入口から来たよ? って言うか、脱衣場だけ別で、中は一緒なんじゃない? 湯着も付けてるし大丈夫だよ!」
「えっ? 湯着って濡れたら思いっきり透けそうじゃん」
「いいよ。カインしかいないし。身体こすってあげるよ。折角だから一緒に楽しもう!」
「「おう!」」
なぜかこんな時だけ意見の揃う三人だった。
予想通りと言うか…… 湯船につかると素肌に張り付いた湯着は、胸の辺りにピンクの突起物を感じさせる……。
フィルは育ちが良いな。
ナディアは、スレンダーだが形の良さが解る。
チュールは…… 頑張れ。
ヤバイ…… 視線が釘付けになるし、我が息子の血流が良くなる
煩悩退散!
結局三人がかりで身体をこすられ、まぁ…… 気持ち良かったが落ち着かない。
飯食ったら、後で一人でゆっくり入りなおそう。
風呂から上がると、一度部屋に戻った。
生活魔法の送風で髪の毛を乾かしていると、フィルが「カインお兄ちゃん私もお願いしていいかな?」 って言って来たので、乾かしてやった。
風呂上がりのいい匂いがする。
ナディアも羨ましそうに見てたので、乾かしてやった。
フィルとはまた違う、いい匂いだ。
するとチュールも当然の様に俺の前に座った。
「チュールは自分で使えるだろうが!」
「使えないもん」
「嘘ついたな……」
「…… カインの風が良い」
しょうが無いから、乾かしてやった。
耳が邪魔だから手で触りながら、乾かしてやると真っ赤になってうつむいてた。
可愛いかも……
脱いだ服は、生活魔法の清浄で綺麗にしたから、汗臭くもない。
みんな揃って、再び1階へ行き食堂へと入る。
説明があった通りに、バイキング形式でキッチンの前に並んだ料理を自分で好きなだけ持ってきて食べられる。
肉も魚も野菜もあって、デザートの果物もあるが、20人くらいのお客さん達は、みんな物静かに少量を食べると手が止まっていた。
俺達も、一通りの料理を取って来て食べる。
「「「「いただきます」」」」
ケラは部屋でお留守番だ。
ちゃんとケラのご飯は俺の作り置きのを上げてきたけどな。
一口運んで手が止まった。
みんなで顔を見合わせる。
見た目は悪くは無かったんだけどな……
味が良くない。
食べれないほど不味いか? と問われると食べれる。
でも美味しく無いんだ。
肉も魚も火加減がまず駄目だ。
調味料も使ってはいるが、バランスが良くない。
実に勿体ない。
いや、これは素材に対しての冒涜にさえ思える。
決して素材が悪くないだけに、残念極まりないな。
みんなも日ごろ俺の料理に馴染んでいるだけに、同じような感想だったみたいだ。
みんな無口で皿に取って来てしまった分だけは、なんとか口に押し込んだ。
料理が美味しくないと、会話が無くなるんだ…… と思った。
部屋に戻ると誰が俺と同じベッドに寝るかで、再び女性陣の火花が散った。
「チュールもナディアも小柄なんだから、3人でそっちに寝ろ。俺はケラとこっちに寝る」
「駄目です! 仕方ありませんが最終手段です。手伝って下さい。ベッドを引っ付けます」
結局、二つのダブルベッドを引っ付けてみんなで寝る事になった。
ダブルベッドクソ重いぜ。
なんだかんだでみんな疲れてたのか、ベッドに入るとすぐに寝息を立て始めた。
俺は、もう一度風呂に行こうと思い、一人でベッドを抜け出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます