第35話 昇格試験

「試験を受けられるのは、ナディアさんとチュールさんのお二人で間違いないですか?」

「ああ。それで頼む」


「相手を務めるのはこのギルドの訓練担当教官のドーガンが努めます。元Bランクの冒険者ですが、勝つ必要はありません。能力を判断するのが目的ですから」

「解った。ナディア。チュール。大丈夫だな?」


「はい」

「うん」


「試験料は一人銀貨1枚になります」


 そう言われて俺は、銀貨2枚を払った。


「お嬢ちゃん達が試験を受けるのか? 獣人とエルフたぁ珍しいな。俺が試験官のドーガンだ。まぁ精一杯頑張れよ。試験の評価はお前たちの生存に関わるから決して甘くは無いぞ。どっちからだ?」


「私からお願いします」


 そう言って前に出たのはナディアだ。


「何でも使って構わないが、殺すのは禁止だ。まぁ俺を殺せるくらいの強さを持ってると言うなら、見てみたいがな!」


 なんかちょっとヤバイ発言な気がした。

 フィルも心配そうな顔をする。


「大丈夫かな?」

「どうだろ、勿論その心配はドーガンさんに対してだよな?」


「うん……」


『開始!』の声が掛かり、ドーガンさんが片手剣を構える。

 正統派の剣士スタイルだな。


 ナディアの手には弓が持たれている。


 矢をつがえずに弓を上に向けて構えると、そのまま弦を引いた。


「ライトニングシャワー」


 そう呟くと、訓練場全体に光の矢が降り注いだ。

 ドーガンさんが、かろうじて頭部だけは左手に持った盾で防いだが、小ぶりのサークルシールドでは、防ぎきれずに肩や腕から血を流した。


「そこまでだ!」


 俺の後ろから、声が掛かった。

 フィルが訓練場に入って行き、回復魔法をかける。

 傷はすぐに塞がった。


「いやぁ参った。こんなの俺じゃ無理だ。文句なし合格だよ」

「Aランク冒険者の連れが昇格試験を受けると言うから、来てみたがこれはまた見事な魔法弓の使い手だったな。それに……君は『ドラゴンブレス』のフィルさんじゃないか? って一緒に居るのはカインか」


「あ、あなたは…… 誰でしたっけ?」

「おいおい、覚えて無いのか? 元王都の副ギルドマスターをしていたゴアだよ。今はここのギルドのマスターをしている」


「あー、そう言えば見覚えが。お久しぶりです」

「二人とも『ドラゴンブレス』は辞めたそうだね」


「俺はクビになっただけですが」

「らしいな。ギースも馬鹿な判断をしたもんだ。私は職務上、王都のギルノア・ヴィンセント卿からカインの事も聞いている。こんな試験を受けなくても、カインのカードの隠蔽を止めれば問題無くAランクパーティでも構わないが?」


「あ、それは遠慮しておきます。大体、俺王都のおっさんから何も聞いてなかったですから」

「そうか、だが聞けばこれから国外に行くそうじゃないか、表面上の表示をBランクにしておこう」


「それはちょっと助かります」

「もしかしてだが、もう一人の猫獣人のお嬢ちゃんも、そのエルフ並みに強いのかい?」


「いえ…… それは無いと思いますが、一応試験はお願いできますか」

「ドーガンもう一人大丈夫か?」


「あ、ああ。カイン。このお嬢ちゃんは普通なんだよな?」

「戦ってる姿見た事無いからな。見た目幼女の猫獣人だし、流石にドーガンさんより強いとは思えないよ」


「カイン失礼。幼女じゃない。私も強い。カインの戦う所を見てるから」

「と、本人は言ってますが?」


「まぁいい。フィルさんが居てくれるし、即死じゃ無ければ大丈夫だろう。ドーガン試験を始めてくれ」


 そう言って、チュールが訓練場に入って、試験が始まった。

 小柄なチュールは、武器はカインが渡した懐剣だけを持って、低い姿勢で構える。


 ドーガンさんは流石に自分から斬りかかるような事はしない。

 チュールの攻撃を、受け止めてからの反撃を狙うのだろう。


 チュールは低い姿勢から素早く飛び出し、ドーガンさんに斬りかか…… らずに真横に飛んで、下がっていく。


「何だいきなり逃げるのか? そんなのじゃ駄目だ」


 そう言いながら、ドーガンさんがチュールの動きに反応して追撃態勢だ。

 そこでチュールが、小さく呟く。


『穴掘り』


 カインの様な穴が掘れる訳では無いが、それでも5㎝程の深さで50㎝四方程が掘られた。

 だが、ドーガンのバランスを崩すのには十分だ。

 その場につまづいたドーガンに素早く近づき首筋に懐剣を当てた。


「それまで!」

「参ったな。自分の能力を冷静に判断して、上手く立ち回る事が出来る。Dランクには十分だ。合格だな」


「チュール凄いな」

「チュールちゃんやったね」


「だから言った。カインの戦いを見てるって」


 見ただけで出来るのなら誰も困らないんだが……

 チュールの反射神経が高い事だけは間違いなさそうだ。


「どうする? 明日のパーティの試験は必要ないだろ? と言うか、そのメンバーなら、Sランクパーティが相手でも余裕で勝つだろ? Bランクパーティで認定出すからパーティ名教えてくれ」

「どうするフィル? パーティ名」


「私が決めていいの? 『カインとゆかいな仲間たち』でいい?」

「却下」


「ねぇカイン。『希望食堂ホープダイナー』とかどうかな?」

「お、チュール。それいいな」


「ゴアさん。パーティ名はホープダイナーでリーダーはフィルで!」

「ちょっ。何言ってんのよカイン兄ちゃん。リーダーはカインお兄ちゃんに決まってるでしょ!」


「しょうがねぇな。じゃぁそれでゴアさんお願いします」


 こうして俺達のパーティ名は『希望食堂』に決まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る